3回目は、顧客とのやりとりを分析することで、さまざまな情報を収集できることのダイナミズムについてお話しする。
1回目の「コールセンターを“なじみのお店”に変える経営改革」では、経営において顧客の声を聞くことが重要であることを説明した。2回目では、コールセンターの設計を考察。3回目は、顧客とのやりとりを分析することの効果について伝えたい。
野元 お客様の声を入力する仕組みであるVOCレポートに上がってくる気になる商品情報があります。例えば、少し前に「BBクリーム」というキーワードが多く入ってきました。最近ですと「オールインワン」というキーワードなどが多く入ってきています。こういう事象から、市場で起きていることが分かったりします。
灰塚 ある時から、当社の主力商品の販売状況に変化が起こり始めました。ちょうどそのとき「BBクリーム」という言葉がお客様のお問い合わせに多く見られるようになってきたのです。そのクリームを調べたところ、確かに当時ヒットしていた商品で当社の主力商品と機能や効用が似ているという事実を発見しました。そこでBBクリームが訴求しているポイントを分析し、当社のお客様の疑問やニーズを探り、販売訴求の仕方を変えることでお客様が持つ疑問や不安を払拭した事例があります。
市場とそこに存在する顧客の心理、行動は常に変化する。多くの場合、ささやかに変化する初期段階はあいまいであり、見落としがちである。この段階で変化を察知し、何らかの行動を取ることは非常に難しい。
確立している企業の多くは組織の完成度も高く、ごくわずかな変化に対応するよりは既存の組織を維持し、さらなる事業拡大をする方を選びがちである。その方が費用的にも合理性が高く、社内の合意形成もしやすいからである。もう1つの要因は強い既成概念である。「こうであるに違いない」という強い思いにより、新しい角度の意見要望などは見過ごしてしまうということもあると思われる。このように既成の概念を崩して新たな変化に対応するということは、企業活動において難しい課題である。
一方、明らかに変わろうとしていることに目を向けず、気づいたら新しい企業に市場を奪われ、競争ルールが全く違うものになってしまったという事例も多い。
著名な事例として、ハーバード大学のクリステンセン教授が著書『イノベーションのジレンマ』の中で、破壊的イノベーションと称して紹介した既存優良企業が、ハードディスク産業の変化に適応できず市場シェアを塗り替えられたという話がある。
しかし、一般的に企業を取り巻く環境は、クリステンセン教授が事例として提示している破壊的イノベーションよりも過去から継続している流れの中で何かが少しずつ変化し、その積み重ねの結果大きな変化になるケースの方が多い。つまり、目に見えないかすかな持続的変化に対応する組織能力が、現実にはより重要なのである。
JIMOSのインタビューに出てきたBBクリームの事例のように、「機能や効果が似ているが何かが違う」という商品が出てきた際、その競争相手を調べ、意識して対抗するにはその相手のやり方をよく知る必要がある。そのためには、正確な情報を得られる情報源が必要である。
その情報源とは、実際に見たり聞いたり手に取って使って試したりする、まさに自社の顧客ではないだろうか。いつも目の前にいてくれる既存のお客様のかすかな言動や行動の変化から、読み取れる将来への変化を競合に先んじて読み取ることで、コールセンターは単なる接客機能でなく、企業の未来を予知する機能としても活用できる。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授