IT業界の収益構造を含めた構造変化がクラウドで加速しつつある。
IT業界構造は、水平分業と重層化で特徴付けられる。富士通、日立製作所、NEC、NTTデータ、およびIBMといった大手ベンダーが顧客との契約を持つプライマリーコントラクターとなり、幾層かの下請けがぶら下がるレイヤー構造である。バリューチェーンの切り口では、ハードウェア・ソフトウェアの製造販売、コンサルティング、SI・システム開発、保守・運用に分かれる領域を、業界や機能の得意分野を持つプレーヤーたちが分業する。
大手ベンダーは、この構造を維持することで外部の高いスキルを柔軟に調達しつつ受注の変動による悪影響を外部化し、中小ベンダーは最小限の営業力で何とか生き延びてきた。最近になってようやくIT業界でも海外・国内案件ともにM&Aの話題を聞くようになってきた。背後には、IT業界の収益構造を含めた構造変化を先取りするベンダーの狙いがある。
クラウド時代には、提供する価値が変化し、それに伴ってビジネスモデル、すなわち商品・サービスの提供の仕方、及び市場のサイズが大きく変化する。
1.提供する価値:顧客ニーズにフィットする顧客固有システム(いくら高くても)から、許容範囲の機能レベルで最も安価なサービスへ
2.商品・サービスの提供の仕方:これまでは、徹底したユーザー独自仕様のシステムを提供してきた。これを実現するため、固有仕様をユーザーとともに定義し、最適なハードウェア・ソフトウェアを別々に調達し、カスタマイズされたシステムを構築してきた。必要なコンポーネントはシステムリソースの稼働状況にかかわらず所有し、かかるコストをすべて顧客に負担させてきた。顧客固有システムを握ることで顧客をつなぎとめ、顧客固有要件を定義する中で蓄えた業界・業務知識をレバレッジして新たな顧客を獲得することが可能であった。
クラウド時代は、ユーザーが多様な選択肢の中から自社にとって最適なものをサービス単位で選択するため、汎用性と高機能を両立したサービスをいかに安く作れるかどうか、が勝敗を分ける鍵になる。このため、ベンダーは自らのノウハウを最大限注入し業務要件をカバーしたサービスを定義、できるだけ低コストで構築し、不特定多数の企業に提示する。パラメータの設定による最低限のカスタマイズはあるものの、業務要件を学ぶ機会は減少し、固有システムをフックにした顧客リテンションは困難になる。受け取る対価は顧客が実際に利用するサービス相当となり、これまでの固有システム向けのハードウェア所有やカスタマイズのSIなどで得ていた対価を下回る。
3.市場のサイズ:これまでは、景気の変動に大きく左右されながらも、ハードウェアやSIは減少傾向、保守運用サービス市場は、顧客企業のコアフォーカスの流れから増加傾向にあった。クラウド時代には、SIサービスの存在意義は低下し、市場は縮小する。
顧客固有の業務に合わせるカスタマイズ開発が最小限となり、開発業務ボリュームが激減する。保守・運用サービス市場も、固有システムの減少に従って縮小する。ハードウェアは、仮想化技術により稼働率向上、ベンダーの観点ではハードウェア販売と保守の減少につながる。ITコンサルティングも、固有要件の定義から、既存サービスと自社ニーズのFIT-GAPに関する目利きに役割が変質する。
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明治学院大学 経済学部准教授