このような社会構造は、社会的な安定性という観点からもリスクととらえられ、ほかの諸条件と合せて、日本企業の関心を集めることがなかった。しかし、ファーストリテイリングがバングラデシュでの生産開始を発表した2008年11月末を機に、繊維産業に限らず、多くの日本企業がバングラデシュに関心を抱くようになり、現地視察としてバングラデシュを訪れることが多くなったそうだ。
それらの日本企業のスタンスを大別すると、3つに整理できる。1つは、チャイナ+1としてバングラデシュをとらえ、これまで中国に依存してきた労働集約型産業としての拠点をバングラデシュにも設けようというスタンスである。
2つ目は、まだまだ事例としては多くないものの、バングラデシュを新たな市場としてとらえるというものである。味の素の取り組みはその好例だろう。味の素は、2008年1月よりベンガル語で表記された小袋カレンダー品を投入するほか、使用方法の説明とサンプリングのために家庭訪問する活動、路面小売店をまわり商品説明をしながらの現金販売、学校や居住地近くの広場での試食キャラバン活動など、市場の獲得に向けて、積極的に展開を進めている。
なお、味の素は2010年4月、2012年以降にバングラデッシュに現地法人を設立する検討に入ったことを明らかにしており、ますますバングラデシュでの販売活動を強化していくようである。このように、バングラデシュを新たな市場としてとらえる企業は、今後増えていくことが予想される。
近年増加の傾向にあるのが、CSR活動の一環、延長として、ソーシャルビジネスを展開しようという、3つ目のスタンスである。これは、既に述べた2つのスタンスを見据え、それらと組み合わせた形になることが考えられるが、具体的なスキームを描く前の視察として、バングラデシュを訪れる企業も多いようである。
このように、バングラデシュに対する日本企業の関心は日に日に増しており、JETROとしても強力に支援していくとのことであるが、鈴木所長は、バングラデシュへの進出を考える日本企業に対して、留意点を指摘した。
まず、バングラデシュのインフラ整備状況である。バングラデシュの社会インフラは、経済活動を営む上で、いまだ問題が多いのが実状である。確かに人件費は安いが土地の価格は高く、電力、道路、港湾などの経済インフラ整備が遅れているため、想定外のコストがかかってしまう。
例えば、一日に数回、停電が起こる。わたしも初めてバングラデシュに来た際には驚いたものだ。このような不安定な電力供給のため、ファスニング事業のトップ企業であるYKKでは、工場のラインを止めぬよう自家発電の設備を備え、対応している。これは一例であるが、バングラデシュ進出に当たっては、事業の運営にかかわるインフラの整備状況、およびその対応策を考える必要がある。
第二は、欧米や中国、韓国の企業が一歩先にバングラデシュに進出している点である。欧米企業の進出状況については、これまでの記事でも述べてきたが、例えば、家電市場においては、低価格を武器に中国企業が席巻しており、高級家電メーカーとして韓国企業が存在感を発揮している。つまり、日本企業がバングラデシュに進出する際には、こうした企業を打ち負かし、奪い取る考えがなければならないのだ。これらのことを認識し、バングラデシュ進出に向けた戦略を描いてもらいたいと鈴木氏は語ってくれた。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授