ここで米倉氏は米国の自動車メーカー、Fordの例を示す。1908年ヘンリー・フォードによって創立されたFord Motor Companyは平均日給が2.7ドルの時代に従業員に5ドル払ったという。自殺行為だという批判には耳を貸さず、ヘンリー・フォードは次のように話したというのだ。
「わたしの従業員はわたしの自動車をつくるのではなく、わたしの自動車を買うのだ」
果たして、従業員たちは猛烈に働き、自動車を売り、自動車の価格を3分の1にして自分たちもフォード車を買った。Fordは自動車をただつくって売ったのではない。自動車の時代をつくったのだ、と米倉氏は語る。
「生産性を上げることが大切だが、それに必要なのはモチベーションだ。モノが売れない、コストを下げる、賃金も下げる、購買意欲が下がる、ますますモノが売れない。こうした負のスパイラルから抜け出すには、従業員のモチベーションを上げ、生産性を高め、イノベーションを起こすしかない」
人の能力はそんなに大きな差はつかない。しかしモチベーションは数百倍にでも差がついてしまう。日本企業が意識しなくてはならないのは、このあたりのことかもしれない。9%から10%の水準で経済成長を続けているのは中国、そしてそれに次ぐ成長力を持っているのはインド。アジアの時代は確実にやってくる。
モチベーション上昇、生産性向上、そしてイノベーション。イノベーションは技術だけと限らない。既存の仕組みや発想を組み合わせて新しいサービスやモノを作ることもイノベーションだと、米倉氏は話す。
「例えば日本の火力発電でのCO2削減技術は世界でトップです。ASEAN諸国ではこれからどんどん火力発電所が作られます。それらに日本の技術をどんどん提供していく。それだけで1億2000万トンのCO2が削減できるといいます。さらに米国、ロシアなどの火力発電所に日本の技術を導入することで合計2億トンくらい削減ができる。それだけでも大きなビジネスチャンスです。しかしこうしたチャンスがなかなかビジネスに結び付かないでいるという現状があります」
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明治学院大学 経済学部准教授