シーメンスPLMソフトウエアの新社長に舵取りの抱負を聞く。
独シーメンスは、旧UGS買収後の3年間にわたる組織統合化の目標を達成し、現シーメンスPLMソフトウエア(テキサス州プラーノ)の統合化の推進役にシーメンスから社長として送り込んだヘルムート・ルドウィッグ氏をドイツに召還。これとともに、2010年10月から経営トップ職をトニー・アフーソ会長率いる旧UGSに返還し、温存していた旧UGSの人材の中から新社長として、チャック・グラインドスタッフ氏を選出した。新社長に舵取りの抱負を聞く。
――買収された後の過去3年間で何が最も大きく変わったか?
わたしは1978年にこの会社に入社し、以後32年間在籍している。プログラマとしてスタートし、それ以後は研究開発(R&D)リーダー、製品戦略グループの統括、製品全体のマーケティング責任者などを経験し、社長に選出される前には、全ての製品の戦略的開発計画の立案およびM&A戦略を統括する役割を負っていた。キャリア・パスとしては単純明快で、常に自らビジネスを先導することを熱く求めてきたし、わたしの思い通りの経歴を積んできたといえる。
シーメンス傘下に入った時も、わたしの経営への熱望はスローダウンすることは無かったが、冷静に状況を読むことを心がけた。われわれは、シーメンスが何を考えているか知る必要があったし、シーメンスもわれわれについて知りたがっていた。そして、われわれはシーメンスがドイツから社長を送り込んでくる事に合意した。
しかし、シーメンスがドイツから社長を送り込んでくる事にわたしは合意した。何といっても旧UGSは年商12、13億ドル規模の企業体だったのに対し、シーメンスは800億ドル規模の巨大企業だったからだ。シーメンス規模の組織体内の複雑な構造を理解し、連携して事業を進める上で知るべき人はどこにいるのかを見出すことは容易でない。
まさにそのために、ヘルムート・ルドウィッグ(前社長)のような、組織とビジネスを知悉し、かつエンタープライズソフトウエアの市場と技術動向に詳しい人材がどうしても必要だった。
われわれは、一方でUGSのPLM事業を継続成長させながら、同時にシーメンス製品群との連携と統合のための開発という課題を課せられていた。だから、シーメンス組織のネットワークと連携すべき人、さらに事業プロセスに関する彼の知見がなければ、遅滞なくこの数年間の事業を推進することは困難だったろう。
さて、その組織的統合と開発の連携づくりのための3年計画を成功裡に完遂した事で、この10月から、わたしはもともと目指していた自らが経営と開発を主導する路線に立ち戻ることになったのだ。
――経営や組織的な観点で、シーメンスがもたらした具体的な変化について教えてください。
例えば、旧UGSの研究開発のほとんどは、特定市場あるいは特定顧客向けの製品開発に限られてきた。しかしシーメンスでは、約3000人の研究者がコーポレート研究に専従しており、そこでは、基礎的な物理科学からシステム分析、数学からモデリングに至る分野でトップクラスの研究者がナノテク技術、IT要素開発、新コンセプト創出などに従事している。
このコーポレート研究グループ(CRG)の幅広い研究インフラにアクセスできることは、われわれの製品開発力に大きな優位性をもたらす。まず、このCRGとの連携のし方を学ばなければならないが、すべてを自らが開発するのでなく、特定領域の専門家に特定の機能開発を任せるといった開発の分散と連携への道が開けてきた。
直近では、われわれは9月にNXベースにTeamcenterと連携してエレ・メカ・ソフトの効率設計を実現する「メカトロニクス・コンセプト・デザイナー(MCD)」を発表したが、この機能モジュールを構成するコア技術エンジンは、シーメンスのCRGが開発したものだ。それを活用してわれわれの開発グループがMCDを製品化した。この製品がCRGの研究成果をわれわれの製品開発に結びつけた第一号となった。
また別の観点では、われわれがPLMソフトウエア企業として、機械設計エンジニアリングの技術者を抱えているのに対し、シーメンスは制御システムや電気・電子の専門エンジニアを豊富に抱えている。顧客ベースで見れば、PLM側から制御オートメーションやエレクトロニクスメーカーにアプローチすることもあるが、顧客先ではソフトウエア開発管理の投資に関連して知財(IP)問題に悩まされる。しかしシーメンスグループ内では、ICTエンジニアに加え、メカトロニクス、トータル制御システムなどの広範なエンジニアリングのグループからこれらの問題の解決に適切な助言を得ることができる。
経営ではシーメンスの強靭な財務基盤により、安定した投資と経営の計画が可能になったばかりでなく、顧客に対する将来の事業継続性に関しての信頼を高める上においても、得るものが大きい。
社長として最初の年に取り組む課題は「HD-PLM」「シンクロナス・テクノロジ」「システム統合製品開発」の3技術の推進だと考えている。
まずTeamcenter、NX、Tecnomatixに共通化した技術フレームワーク「HD-PLM」の推進が重要だ。われわれは今や我々の製品の中に膨大な性能をもつに至った。ユーザー側では、膨大なデータ量を目的に応じて解りやすい形にまでコンパクト化する技術があれば必ず重宝する。アプリケーションの専門家でなくとも、それぞれの担当部署で膨大なデータの中から必要な情報に迷わず到達できれば助かるだろう。
「HD-PLM」はアプリケーションを横断的に統合したデータを単純操作のナビゲーションで検索し、配信し、3Dビジアルレポーティングなどを通じてユーザーの意思決定に必要となる的確な情報を素早く入手できるしかけとして機能する。この技術は回路設計など2D素材に対しても機能する。顧客にとっては省力化やITコストの低減に役立つだろう。
また「シンクロナス・テクノロジ」の性能の継続的な強化によって、CADによる製品開発設計のスピード、性能、容易さ、CAE/CAMシミュレーション連携は格段に向上しつつある。市場に導入するタイミングで、この技術が可能にする開発設計の全貌を披露するまでいたっていないのは残念だが、ユーザー側の評価は徐々に高まってきた。とりわけマルチCADユーザー向けには、設計作業の負荷を大幅に低減させる技術として重宝されるだろう。
さらに重点を置く3つ目は「システム統合製品開発」だ。エレ・メカ・ソフトウエア統合エンジニアリングは統合したシステム全体のシミュレーション検証を可能にする。MATLABやMapleSimなどのシステムモデルと駆動モデルにメカニカル、キネマティック動的モデルなどをすべて一カ所に統合しようとする。「メカトロニクス・コンセプト・デザイナー(MCD)」はわれわれが独自にエレ・メカ・ソフトウエア統合による製品開発機能をワンパッケージ化し、われわれのソリューションとして提供している。
これとは別に、われわれはシステム統合に配置される最適コンポーネントを提供して、例えばMATLABとわれわれのコンポーネントを組み合わせて、他のプラグイン・コンポーネントを含むHD-PLMの環境を提供できる。
2011年とさらにその先のわれわれに、大いに期待してほしい。
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明治学院大学 経済学部准教授