石油ピークを迎えた世界が直面するエネルギーと経済の危機海外ベストセラーに学ぶ、もう1つのビジネス視点(2/4 ページ)

» 2011年08月03日 07時00分 公開
[エグゼクティブブックサマリー,ITmedia]
エグゼクティブブックサマリー

問題の規模

 現代文明は、安価な石油と炭化水素燃料によって創られたものです。そして、簡単に手に入る石油の量は既にピークに達しており、近く来る石油不足は、間違いなく大問題となるでしょう。今世界が抱えている経済的問題は、まさにこのエネルギーとお金の繋がり(改善されるべき関係)によってもたらされたものです。

 地質学者のMキング・ハバートなどの専門家は長年に渡り、安価な石油生産の迫りくるピークについて警告を発してきましたが、いまだに社会の化石燃料構造に取って代わる有望な代替案がありません。

 また、石油業界の関係者であるディック・チェニー(大手石油サービス会社ハリバートンの元CEO)は、イラク侵攻を始めとする、この石油危機を制御するための秘密の計画を策定しました。さらに、連邦議会や大統領選挙運動の中で行われた討論によって、悲惨にも米国は石油枯渇やそれによって引き起こされる結果にほとんど気付いていないことが分かりました。

 現在のシステムは、エネルギー消費を促し、無限の成長を求める持続不可能な経済を煽るものです。安価な石油の時代が終わる時、世界は非常事態に見舞われます。それは、エネルギー不足による危機的状況です。この危機的状況は、安価なエネルギー源が減少しているにも関わらず、世界人口が増え続けているため引き起こされます。

 世界のエネルギー供給の4分の1を使用している米国は、70%以上の石油を外国から輸入しています。その石油が今、消え始めています。残りはほんのわずかしかなく、2030年までには世界中で使用する石油10バレルに対し、1バレル分しか石油は採取されなくなるだろうと言われています。

 2008年、最大の産油国50カ国の内42カ国で油田の産出量に減少が見られました。クエートやメキシコでは大手油田が破綻し、石油収入の減少によりメキシコの経済は不安定になりました。

 英国、ノルウェー、ロシア、イラン、ナイジェリア、ベネズエラ(米国への最大石油供給国の1つ)の石油生産も減りました。こういった国々への石油開発の経済基盤は言うまでもなく存在しません。また、石油の状況に関する情報には誤解されているものがあります。

 ブラジルやカスピ海盆地で奇跡的に石油が見つかるという話は、裏付けがありませんし、大げさなものです。北極に穴を開けるという案も、石油は海水の下にあるため現実的ではありません。さらに、アラスカの国立野生生物保護区には、サウジアラビア最大の油田のわずか5%しか石油はありません。

 また、現在米国の電力のおよそ40%が天然ガスによって発電されていますが、天然ガスを輸送するには圧縮液化天然ガス(LNG)にしなければならず、お金がかかり、さらには爆発を起こす危険性もあります。トルクメニスタンやロシアはそのガスを大量に保有しています。ロシアはすでにそのガスを武器として使用しており、ウクライナとの紛争の際はアクセスを分断するために2度使用しました。

 世界の石油供給の規模に関する統計は信頼できません。さまざまな石油埋蔵量(例えば「推定」埋蔵量や「有望」埋蔵量など)は、税負担を減らすため、あるいは投資価値を上げるために巧妙に操作されたものです。

 世界のエネルギーシステムと米国の公共事業のインフラは改善が必要です。世界は、2030年までに石油採掘リグ、パイプライン、製油所などの設備の保持などを含め、エネルギー構造をアップグレードしなければなりませんが、これには22兆ドルかかります。特にメキシコ湾(サウジアラビアがリグを120貸し出している)では、高額な深海リグを建てるのに多額の資金を必要とします。 また、米国は大量の電力を必要としますが、天然ガスの不足や不十分な維持管理によって送電系統は危険にさらされてしまいます。2005年にジョージW・ブッシュ大統領が公益事業持株会社法(PUHCA)を撤廃したことにより、この問題は複雑になりました。この法律は電力会社に緊急事態に備え、必要以上に発電する能力を維持させるものでした。この法律撤廃により、公共事業はサービスではなく利益を重要視し、誰にいつ電力を提供するか選び、州外に燃料を売るようになったのです。

 2009年後半に取引が減少し始める前、米国中の政府事業体はインフラ(ペンシルバニア州の高速道路やシカゴのミッドウェイ空港など)を売却したりリースしたりしようと試みました。しかし、うまくいかず、一部のプロジェクトだけが継続されています。2005年に米国の自動車交通量はピークを迎え、ガソリンの値上げによって更に減っているにも関わらず、巨大な全国道路建設キャンペーンは進行中です。また、航空会社がフライトを減らしている中、空港は拡大されています。

 米国はこの行き詰まったシステムにテコ入れしなければなりません。なぜなら、代替エネルギー(風力、太陽光、水素)では現在の需要を満たすことはまったくできないからです。

 石油を中心に回っている世界経済の仕組みがここに書かれています。石油依存を作り出した米国の経済政策が今、世界的スタンダードとなっていますが、いずれは枯渇することが予測されていたにも関わらずなぜ、こうした構造が作られてしまったのかということが不思議でなりません。ローコストだからそれを大量消費し、後先考えない行あたりばったりの政策の終えんが目の前に見えているような気がしてなりません。

 恐ろしいことに、代替ではその需要を満たせないと言うことは、世界的経済がそこで一旦破たんすると言うことを意味しているということです。

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