出版業界を取り巻く課題は一朝一夕で片付きそうもない難問ばかり。それでも森野氏は「ドラッカーではないが、今起きていることの中に未来の兆しがある。必要なのは変化すること。好むと好まざると、攻めていかなければならない」と話す。
森野氏が掲げたキーワードが「出版業界のハイブリッド化」だ。全ての本がデジタルだけになるとは考えていない。「出版業界においては、紙の本とオンデマンド印刷、そして電子書籍というアナログとデジタル双方の媒体を収益源とする新しいビジネスモデルを確立することが必要」。
デジタル化を見すえた戦略は確かに必要だろう、ハイブリッド化も分かった、しかし、なぜ、老舗の書店まで買収する必要があるのだ? そんな批判や疑問が外部から投げかけられた。それに対し、森野氏はこう反論したという。
「あえて書店や出版社まで仲間に取り込んだのは、本の製作から流通、販売に至るまで一気通貫のプラットフォームを構築するという目標があるからで、別の言葉でいうなら、ワンストップソリューション。アナログ、デジタル双方で収益をあげるモデルを作り上げ、それを提案したいと考えており、その実験を進めるためには、書店、出版社にも仲間に加わってもらうことが必要だった」(森野氏)
一連のM&Aで注目される前から、大日本印刷グループは電子書籍ビジネスには積極的で、電子書籍の取次の役割を担う関連会社であるモバイルブック・ジェーピーもある。NTTドコモなどとの共同出資会社が運営する電子書籍の書店「honto」は、紙の本も扱うハイブリッド書店への移行を進めている。買収で傘下に収めた丸善やジュンク堂、出版社を合わせると、紙とデジタルの双方で、一気通貫のプラットフォームを確立するだけの「駒」は確かにそろった。プラットフォームの完成はそれほど遠くないようだが、その実効性を証明するのはこれからの課題だ。
「多様な出版社の存在が前提で、出版社からプラットフォームに流れてくるデータはひとつの基準に沿ってマイクロコンテンツとして半永久的に保持することができる。同じコンテンツを再利用して、紙であろうが、さまざまなデジタル媒体であろうが販路に乗せることができればプラットフォームは完結し、各プレイヤーは利益を生み出すことができ、生活者・読者にとっては利便性が向上する」(森野氏)
大日本印刷の前身は明治9年(1876)創立の秀英舎にある。その後、日清印刷を合併し、社名を大日本印刷に変更した。1950年代、以降は「拡印刷」の旗印のもと、食品などの包装材や住宅や自動車の内装材、さらにはエレクトロニクス部材へと業域を広げてきた。
2001年に策定した新たなビジョンでは、「P&Iソリューション」という方向性を示している。永年培ってきた印刷技術(Printing Technology)と最新の情報技術(Information Technology)を融合、さまざまな産業の課題を解決してきた知識やノウハウを生かして、新しい価値を生み出すソリューションを提供しようというものだ。大日本印刷はいま、出身母体ともいえる出版業界において、ソリューション企業としての力量を試されているともいえる。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授