「マグロ船は過酷だ」。そんなウワサは本当なのか。水産食品の技術者が、上司の思いつきで乗せられてしまったマグロ船。でも釣った魚は大きかった。
この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。
「マグロ船は過酷だ」。そんなウワサは昔からまことしやかに言われていると思います。わたしはかつて、水産食品に関する技術者をしていたのですが、上司の思いつきでマグロ船に乗せられてしまったという過去があります。実際マグロ船に乗せられたことで、それはウワサなどではなく本当であることを実感しました。
1日のはじまりは朝6時で、釣り針を海に流しはじめます。この釣り針は、長〜い1本のロープに2千本も付いています。ちなみに、“長〜い一本のロープ”がどれくらい長いかというと、なんと、「東京駅」から「富士山」くらいの距離にあたる、約100キロメートルもあります。これだけ長いロープですから、流し終わるのは6時間後の12時近くになります。
このあとマグロが釣り針にかかるのを待つため、3時間停泊して静かにしています。この3時間は、漁師たちにとって貴重な睡眠時間にもなっています。15時になったら流したロープを巻き上げる作業を行うのですが、すべてが機械化されているわけではないので、かなりの部分を人力によって重いロープや浮き玉など、仕掛け一式を巻き上げなければなりません。
この巻き上げている途中途中にマグロが揚がるのですが、無事、ロープを回収し終わるのが、なんと12時間後の翌朝3時です。このあと、シャワーを浴びたりして、わずか2時間ほど睡眠をとり、また朝6時からのロープを流す作業に備えます。
つまりマグロ船の漁師たちの睡眠時間は、最大でも5時間程度で、実働時間だけで17時間も体をハードに使って働いているのです。友人に元イワシ漁の漁船で働いていた人がいて、彼に「マグロ船の漁師ってどう見られているの? 」とたずねたら、「漁師のなかでも、マグロ(漁)は過酷すぎて別格だ」と言われました。
それくらい肉体を酷使する仕事のせいか、マグロ船ではカロリーをたくさん摂る必要があるらしく、リポビタンDのような栄養ドリンクやジュース類など1日7本飲む人も珍しくありませんでした。そんなハードな長時間にわたる肉体労働は、危険との隣り合わせでもあり、例えば次のような労働災害があります。
なので船長は、若手の漁師がアブナイことをしていないか、常に気を配っていなければなりません。
しかし、実働時間である17時間も船長にジィ〜ッと見られていたら、若手にとっては監視以外の何者でもなく、狭い船内はストレスが充満し、それによって人間関係がこじれて作業効率が落ちたり、労働災害が起きてしまうのです。こうした環境なので、船長は「若ぇ子たちがアブナイことをしちょらんかいのぉ」と、ちゃんと見守りつつも、かといって、監視にはならないようにしないといけないという、一見矛盾したことをしないといけないのです。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授