現在の流通業は、例えば、スーパーマーケットではバスケット単位でPOS端末からデータが収集される。何を一緒に買ったのか、クーポンを利用したのか、何時何分に精算したのか、といったデータだ。これがRFIDなどの技術を駆使し、より多くのデータを集めようとすれば、商品ごとのバスケットに入れた時間や店舗内を歩いた経路はもちろんのこと、ビデオカメラのデジタルイメージから個人を特定できるだろう。これは空港などのセキュリティで既に実用化されている技術だ。棚ごとにビデオカメラを配置しておけば、商品を手にしたときのデジタルイメージを解析して感情まで推測できるかもしれない。
「レジに至るまでの過程が分析できれば、さらに効果的なマーケティング施策が打てるはずだ」とブロブスト氏。
これはBig Dataの分析で先行するe-コマースの分野に置き換えて考えれば分かりやすい。購入ボタンを押した時点のデータを分析してももはや十分ではなく、そこに至るまでの過程が重要だとされている。そこで例えば、ソーシャルメディアで友人とどのようなやり取りがあって購入に至ったのかを理解しようと取り組んでいる。
またキャンペーンの対象も、明らかにセグメントから個人にターゲティングされつつある。近い将来、ほとんどの顧客がスマートフォンを手にして来店することを考えれば、顧客ごとに異なる価格を提示することも容易になるはずだ。
「スマートフォンでバーコードをスキャンするとモバイルアプリケーションがその顧客向けの特別価格を表示するようにすればいい。クーポンを特定の顧客に贈るのと同じだ」(ブロブスト氏)
データウェアハウスの超大規模化で可能性が広がるデータ活用だが、課題も多い。ブロブスト氏は、技術的な課題は少ないとしながらも、むしろ「PAPA」(Privacy, Accuracy, Property, Accessibility)と呼ばれる社会的な課題が手ごわいとみる。このPAPAは、リチャード・O・メイソン氏によって情報倫理に関する4つの基本的視点として、早くも1980年代に提起されていたものだ。
ブロブスト氏は、一例として、ヘルスケアの分野における情報倫理の課題を指摘する。
「診察や治療に関するデータをリポジトリに格納し、世界中のどこからでもアクセスできれば、いざという時にも安心だが、逆によく知らない医者に必要のないプライバシーまで明かしてしまう懸念がある。また、データが不正確だったことによってミスが起きてしまった場合の補償はどうするのか」(ブロブスト氏)
技術的には既に多くのことが解決され、実現可能となっている。むしろ問題は社会的・哲学的なものだ。
「われわれが開発している情報技術は、両刃の剣と言っていい。ぜひ、みなさんで適切な使い方を考えてほしい」とブロブスト氏は訴えた。
── 個人の情報をどこまで開示しなければならないのか。また開示にはどのような条件が必要か。
── 情報の信頼性や正確さなどについてだれが責任を持つのか。不正確な情報によって損害をこうむった場合はどうするのか。
── 情報や情報交換の経路はだれが所有するのか。こうした価値ある資源の配分はどうすべきか。
── 個人や組織はどんな情報にアクセスする権利や特権があるのか。また、それはどのような条件が必要か。
(出典:Richard O.Mason, "Four Ethical Issues of the Information Age")
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