膨大な環境データの共有で、社会はどう変わるのか――MITメディアラボの伊藤穰一所長と慶應義塾大学の村井純教授が、放射線データ共有プロジェクトの展望を語った。
世界中の放射線量などを測定し、データを分析した上でWeb上に公開していく――そんなプロジェクト「Safecast」が今、進められている。東日本大震災から約1週間後に米国で発足し、各国の大学教授やハードウェア/ソフトウェアエンジニアなど100人以上のボランティアが参加。現在、慶應義塾大学の「Scanning the Earth Project」(地球環境スキャニングプロジェクト)と共同で日本での活動を行っている。
膨大な地域データの共有によって、社会はどのように変わるのか。Safecast顧問を務める米MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボ所長の伊藤穰一氏と、同じく顧問を務める慶應義塾大学の村井純 環境情報学部教授がこのほど、都内で開催された慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)のイベント「SFC Open Research Forum 2011」で展望を語り合った。
「何か行動をしなくてはと思った」――伊藤氏は震災直後に抱いた思いをこう話す。「日本政府や東京電力などの会見を米国からUstream経由で視聴しつつ、とにかくたくさんの人と連絡を取った。特に放射線量の測定が重要になると考え、以前からセンサーネットワーク技術を研究していた村井教授に相談した」
村井教授は、クルマの各種センサーで取得した情報をネットワーク上で組み合わせる情報システムの研究を10年以上続けてきたという。例えばワイパーの動作の有無で雨の降り始めた場所や時間を把握したり、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)の動作の有無でタイヤがスリップしやすい交差点を把握するなど、「クルマのネットワーク化によってさまざまなことが分かる」と村井教授は話す。
「もし世界中を走る10億台のクルマをセンサーネットワークで結べば、地球上のほぼ全ての場所を“スキャン”できるようになるだろう」(村井教授)
こうした研究を背景に、今回の放射線量測定プロジェクトでもクルマと位置情報ネットワークが活用されている。ガイガーカウンターなどのセンサーをクルマに取り付け、各地の放射線量とクルマの位置情報を取得。それをデータベース化したものを公式サイト上の世界地図にプロットして公開している。
「われわれは全てのデータの著作権を完全に放棄しているので、誰でもサイト上のデータを使って別のサイトを立ち上げたりできる。既に100万以上のデータがあるため、放射線データベースとしては世界で最大と言えるだろう」(伊藤氏)
文部科学省も同様に「放射線モニタリング情報」を公開しているものの、「データを出すまでに時間がかかった上、出てきたデータがリーダブルではない」と村井教授は指摘する。「最初、データがファクシミリで送られてきたときはびっくりした。『デジタルデータでほしい』と頼んで送ってもらったExcelシートも、ヘッドラインが日本語で、日本人にしか理解できないものだった」(村井教授)
また伊藤氏によれば、各地の放射線量は数メートル単位で異なるほか、原発からの直線距離に関係なく線量が多かったり少なかったりする地域もあるという。「ヘリコプターなどで広域の放射線量を測定してもほとんど意味はなく、もっと細かく測定することに価値がある。われわれはかなり早い段階からそれを意識し、計測と分析を行ってきた」(伊藤氏)
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