物事の捉え方を変えようとするときにやりがちなのは、「浮かんでいるネガティブな感情を押し殺す」ことです。「これはネガティブな出来事ではなく、ポジティブな出来事だ」と、自分に無理やり思いこませようとします。
けれどもネガティブな感情は実際に起こっていて、それを消し去ることはほぼ不可能なので、気持ちの切り替えができずに悩みます。
そこで、ポジティブな気持ちに切り替える前に、「不安な感情は自分の意志とは関係なく浮かんでくるもので、仕方のないものだ」「ネガティブな感情は抱いてもいい」と、ネガティブな感情が生じることを受け入れてみます。自分に「これはポジティブなことだ」と無理に思い込ませるよりも、受け入れることで気持ちが落ち着いてくるから不思議です。
不安や心配事などのネガティブな感情を抱き続けるのは、あまり気持ちが良くないものです。ですから、多くの人は「ネガティブな感情を抱くのは良くないことだ」と思っています。
ネガティブな感情が生じるのは、「本当はこうあってほしい」という内に秘められている前向きな思いと、目の前に起こっていることとの間にギャップがあるためです。つまりネガティブな感情は、「あなたの本当の思いは、前向きな○○ではないですか」と、自分ではまだ気がついていない前向きな思いを知らせてくれる「アラームシステム」なのです。
「本当はこうあってほしい」という前向きな思いに気がつくことで、「腑に落ちた前向き感」が生まれてきます。腑に落ちる理由は、「もともと自分が望んでいたこと」だからです。
「本当はこうあってほしい」という前向きな思いに気づくための問いはとてもシンプルです。抱いているネガティブな感情に対して「それによって、何が困るのだろう」と、「本当はこうあってほしい」が見いだせるまで、繰り返し自分に問いかけてみるだけです。
図で表すとこんなイメージです。
例えば不透明なビジネス環境で将来の不安を抱いているのなら、「それによって、何が困るのだろう」と、繰り返し自分に問いかけてみます。するとその背景には「家族を守りたい」「やりたい仕事がしたい」など、いろんな思いがあることに気がつくでしょう(「○○できない」の気持ちは、「○○したい」があるから生じるのです)。そして、不安が「大切なものを守りたい!」という思いから生じていることが分かれば、気持ちを前向きに切り替えることに役立ちます。
最後のステップでは、ステップ2で気が付いた前向きな思いの中でできそうな小さなことを考え、やってみます。
家族を守りたいのなら、「『いつもありがとう』と家族に言ってみる」「家族と食事に行く」など、今できることがあるでしょう。それを実際にやってみるのです。自分が内に秘めている「前向きな思い」を少しずつ満たしていくことで、気持ちが安定してくることに気がつくまでに、それほど多くの時間を必要としないことがお分かりいただけることでしょう。
今回ご紹介したのは、目の前の不安や心配事に対し、自分の中にある前向きな思いを見出すという方法でした。目の前の課題に対し、ポジティブな意味を無理に頭の中で見出すことも大切ですが、まずは、自分の内に秘めている前向きな思いに気づき、気持ちをマネジメントすることから始めることをお勧めします。
ネガティブな感情が生じたときは、「本当の前向きな思い」に気づくチャンスです。そして、今できる小さなことから行動していくことで、不安定な社会を安定した気持ちで歩んでいくことができるようになるでしょう。
NPO法人しごとのみらい理事長
1971年生まれ。自動車メーカー、ソフトウエア開発会社を経て、現職。プレッシャーの多い職場で自身が精神的に追い込まれる中、リーダーを任される。コーチングや心理学の手法を実践しチーム変革に成功。難しいコミュニケーションスキルを誰もが使えるようにした「トライアングルコミュニケーションモデル」を考案。思考法やコミュニケーションをテーマとした研修・セミナー・講演・執筆活動を行う。著書に『「職場がツライ」を変える会話のチカラ』がある。
連載記事「人生はサーフィンのように」をeBook(電子書籍)にまとめた「やる気が出ない本当の理由」を発売。詳細はこちら。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授