「若手部下の考えていることが分からない」「ゆとり世代はやっぱり駄目だ」??? いえいえ、若手社員の根本は今も昔も変わっていないのです。ただ、ちょっとコツがいるだけ――悩める上司と部下の付き合い方を、企業の人材育成に携わって27年(!)の田中淳子さんが優しくにこやかに指南します。
最近の「マネジャー」は大変だ。話を聞けば聞くほどそう思う。「プレイヤー」であることはすでに当たり前。「プレイングマネジャー」などと横文字でカッコよく呼ばれているが、実状は、自分が抱えている目標を達成しつつ、部下にもそれぞれの目標を達成させなければならないという、なんだかとてつもなくキツイ立場にいる方が多い。
ある人が30年くらい前の話をしてくれた。「僕が課長になったとき、部下に真っ先に尋ねたんだ。『どういう上司でいてほしい?』と。すると部下たちはこう言った。『何もしなくていいから、どしっと自分の席に座っていてください。困ったときすぐ相談に乗ってもらえるだけでいいから』って。だから僕は、『そうか、自分が動き回るのは迷惑なんだな。だったら、どっしり構えているか』と決意し、のんびり新聞を読んでいたんだ」
サザエさんに登場しそうな管理職の姿である。20〜30年前であればおそらく、管理職とはこういう存在だったのではないだろうか。もちろん、この話をしてくれた彼が本当に全く何もせずに日がな1日新聞を読んでいたわけではないだろう。それでも、いざというときに適切な判断をする、それ以外はちょこまかと動かない。部下のことをよく見て、物事の全体感だけ押さえている。そんなイメージが昔の「上司」にはあった。遠い昔の話だ。
プレイヤーも兼任している現代のマネジャーには、のんびりコーヒーを飲む時間もゆったりと新聞を読む余裕もない。トイレ行く暇すらないかもしれない。ただ、朝から晩までひたすら忙しい。その上、部下に対するケアの範囲は広くなり、深さも増している。
プレイングマネジャーという言葉が生まれる以前の上司は、よくも悪くも「パワー(影響力)」を持っていた。部下のよろしくない振る舞いに対して、「バカヤロー」という上司もいたし、「そこに立ってろ!」と叱責された思い出を持つ人もいる。
今そんなことをしたら、パワハラだ、コンプライアンス違反だ、と大問題になる。だから部下のよろしくない振る舞いについても、「きちんと傾聴」し、「適切な言葉づかい」で「相手が納得するような」言葉で諭さなければならない。
かつては「バカ野郎! 反省しろ!」と5秒で済んだ“指導”が、今では「別室に呼んで、話を聞き、相手が納得するまで分かりやすく説明して」と10分も20分もかかるわけである。
ただでさえプレイヤーとしての役割も担っているのに、部下のケアにもとても時間が掛かるようになってしまった。だからイマドキのマネジャーは大変なのだ。若手がそんな上司の姿を見て、「ああ、管理職にだけはなりたくないなあ。つらそうだもん」と腰が引けてしまうのも分からなくはない。
けれども。けれども。
「踊る大捜査線」の和久さんが、「正しいことをしたければ、上へ行け」というようなことを話していた。これはある程度本当だと私は思う。
できることの範囲が増える。動かせる人数も増える。自分が思い描く「あるべき姿」を目指して、大勢を巻き込んで実現する機会も得やすくなる……はず。だからチャンスが巡ってきたら、マネジャーという役割には挑戦してみた方がいい。
では「部下」の方はどうか。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授