生鮮魚介水産物の流通事業を営む「旬材(しゅんざい)」代表取締役社長の西川益通さんは、約25年間ヤンマーで船の製造販売に関わってきました。その数、実に13万隻以上。全国の漁業者と一緒に船造りに取り組んできた西川さんは、漁業が衰退していく状況を憂いていました。
そんな折、ある漁業者から「売れない魚があるのだが、何とか売れないか」と相談されます。この話が切っかけとなり、旬材は誕生しました。
旬材を立ち上げた2002年当時、魚の市場流通は3兆2000億円ありました。しかし、そのうち1兆8000億円は海外からの輸入であり、市場流通に乗る国産の魚は7500億円ほどでした。その一方、市場では売られない魚が6500億円分もあったのです。
なぜ、流通に乗らない魚が6500億円分もあったのでしょうか?
かつて街の魚屋さんでは、1匹の魚をそのまま、もしくはその場でさばいて販売していました。しかしスーパーマーケットでの販売が多くなったり、働く主婦が増えたりといったことがあり、簡単に調理できる切り身が商品の中心になっていきました。そうなると、サイズが大きすぎたり小さすぎたりする魚は、切り身にしにくいと敬遠されます。
また、流通大手は仕入れを100ケース単位で行います。しかし、そうした大口の注文に応えられるのは、水揚げ量が大きな港だけです。10〜20ケースしか出荷できない小さな港の魚は、収穫しても流通されません。
また、スーパーマーケットは、安定品質、安定供給、安定価格、定時納入できる定番の魚だけが取引対象です。アジやサバといった定番の魚は需要がありますが、あまり知られていない魚は販売先を見つけるのが大変です。そのような状況を見て西川さんは一念発起、会社を早期退職して、市場に流通しない魚をインターネットで販売する旬材を立ち上げました。
しかし最初は、いばらの道の連続でした。事業に一緒に取り組む予定であった大手企業が本社の方針で撤退、さらに西川さん自身が脳梗塞で倒れてしまいます。
絶対安静を言い渡されたにも関わらず病院を脱走して会社に向かった西川さんが見たものは、いつも通りの光景でした。自分がいなくても通常通り仕事を回している従業員の姿を、頼もしくありがたく思ったそうです。
魚も最初は売れませんでした。当初のビジネスモデルは、漁業者がネットを介して情報提供し消費者に直接届けるといういわゆる産直スタイルでした。「単に、ネットにのせれば売れると思っていたのが甘かった」と、西川さんは当時を振り返ります。
そこから試行錯誤を繰り返し、全国の漁業者から直接珍しい旬の食材を買い付けてレストランやホテルなどの飲食店に直接卸す、という現在のビジネスモデルが固まっていきました。
旬材モデルは、漁業従事者に非常に優しいものです。例え小さな港の漁業従事者でも、捕れた魚の数量と価格を携帯端末に入力すれば、わずか2%の手数料でお客さまに直接販売できるのです。「今年のカツオは身が締まって美味しかった」といった反応を直接、感じられるという楽しみもあります。
このモデルは飲食店にとってもメリットがあります。市場を介さず生産者と最短ルートで直接取り引きするため、商品を2〜3割安く購入できます。前日注文した魚が翌日営業開始までに届く機動性や、小口配送に対応する使い勝手の良さも支持されています。
そしてある日、転機が訪れます。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授