多極化する世界市場で勝てるブランドをつくる視点(2/3 ページ)

» 2013年08月19日 08時00分 公開
[鬼頭 孝幸(ローランド・ベルガー),ITmedia]
Roland Berger
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(2)グローバル・ブランドマネジメント・プラットフォーム

 「グローバル・ブランドマネジメント・プラットフォーム」とは、グローバルで基本思想を具現化していくためのプラットフォームである。具体的には「コンセプト」「オペレーション」「組織」の三つの要素からなる。

1.コンセプト

 「コンセプト」とは、「明快かつ確固たるビジョン」「グローバル基本戦略」「ブランドポジショニング」の三つからなる。

 「ビジョン」とは、企業として中長期的にどういう姿を目指していくのか、中長期の目標は何かといった、“目指す姿”のことである。例えばある領域においてグローバルNo.1企業を目指す、売上○兆円を目指す、特定領域においては主要市場すべてでシェア1位を目指す、などといったものだ。

 「グローバル基本戦略」とは、ビジョンを実現するためにどういうった事業領域でどのように戦うのか、という基本的な戦い方を定めるものである。ターゲットとする事業領域を製品カテゴリーや顧客セグメント、地域・国などの観点から絞り込み 、戦うフィールドを明確にする。同時に、ブランドづくりの基本思想で定めたブランド展開のパターンに沿って、ターゲットとする領域においてどういったブランドや製品の布陣(ブランドポートフォリオ、製品ポートフォリオ)で戦うのか、ということを明らかにする。

 例えばネスレやダノン、アンハイザー・ブッシュ・イン ベブ などのグローバル食品・飲料プレーヤーであれば、乳製品、水、加工食品、栄養食品、ビールなどといったカテゴリー単位で自社が勝負する領域を絞り込み、その絞り込んだ領域では世界No.1を目指している。そのために、世界各国の主要市場の該当カテゴリー領域においてシェアトップもしくは2位を取るべく、現地市場に強いローカルブランドを傘下に置いて市場を攻略するマルチローカルブランド型で戦っていく、という基本方針が明確に存在している。

 M&Aをどう位置づけるか、という点も基本戦略の中で重要な要素だ。グローバルメガブランド型であれば、自社のブランドポートフォリオを補完するような将来のメガブランド候補の買収、自社のメガブランドの地域展開を加速化するための販路確保の観点からの現地ブランド買収などがある。

 そして、「コンセプト」における三つ目の構成要素が、「明快なブランドポジショニングを持っていること」である。これは端的に言えば、ターゲット顧客、提供価値、差別化要素の三つについて基本的な方向性がブランドごとに規定され、社内(場合によっては社外も含まれる)の関係者間で共有されているということだ 。

 コーポレートブランド型やグローバルストアブランド型であればコーポレートブランドやストアブランドのポジショニング、グローバルメガブランド型やマルチローカルブランド型であればそれぞれのグローバルメガブランドやリージョナルブランド、ローカルブランドのポジショニングを明確に定義しておくことが肝要である。ハイプレステージ型やプロダクトアウト型においては、必ずしもターゲット顧客や差別化要素などを明確に規定していないこともあるが(いわゆるマーケティング的な考え方から価値を構築していないため)、コアバリューやブランドバリューといった形で自分たちのブランドの提供価値を定義している。

2.オペレーション

 「オペレーション」は、コンセプトを実現するためのプロセスや機能を指す。具体的には、コンセプトそのものを決定しアップデートしていくための「戦略立案機能」、ブランドを育成、グローバル展開していく「ブランド育成モデル=“勝ちパターン”」、そしてコンセプトで定めた提供価値を実現していく「価値創出バリューチェーン」の三つから構成される。

 コンセプト、つまりビジョンや基本戦略、ブランドポジショニングを決定し、アップデートしていくために必要な機能が「戦略立案機能」だ。戦略やポジショニングを決定するためには(一部のハイプレステージ型、プロダクトアウト型の企業を除けば)、グローバル全体を俯瞰した市場の理解、各国・各地の現地市場の徹底した理解が当然必要である(プロダクトアウト的要素の強いハイプレステージ型、プロダクトアウト型においても、グローバルでの展開戦略を考える上では、市場についてのある程度の理解は必須だ)。そして、そうした市場理解に基づいて、基本的な戦略やブランドのポジショニングを決定する枠組み、考え方を持っていなくてはならない。

 また、戦略やブランドポジショニングは一度決めればそれで終わりというものではなく、市場環境や自社の状況の変化に応じて常にアップデートしていく必要がある。つまり、継続的に世界各地の市場情報を収集、蓄積、分析し、自社のブランドの状況をモニタリングして現状を正しく理解し、戦略やブランドポジショニングを必要に応じて見直していくための機能やプロセス、仕組みが必要ということだ。

 さらに、的確な現状分析のためには、自社として独自の市場の捉え方、分析の方法論(市場セグメンテーションの考え方、市場を理解する上での視点やフレームワーク等)も必要となってくる。例えばP&GのCMK(Consumer & Market Knowledge)による市場分析機能や、アンハイザー・ブッシュ・インベブの持つブランドマネジメントのフレームワークはその代表的な事例と言える。

 二つ目の「ブランド育成モデル」とは、ブランドを育成、グローバル展開していくその会社ならでの独自のプロセス、つまり“勝ちパターン”のことだ。グローバルでブランド構築に成功している企業では、多くの場合この“勝ちパターン”が存在している。

 P&Gの事例は分かりやすいだろう。PI(Purchase Intent)を核としたパーチェスファネルをベースに、いかにPIを高めていくか、ということにフォーカスしたブランド構築モデルが確立されている(図4)。過去のデータの蓄積によって、広告宣伝や販促などにいくら投資するとどの程度のリターンが期待できるか、ということをある程度予見できることも武器となっている。また、新規市場に参入する場合は、中長期的な観点からファイナンシャルモデルやブランド育成計画を作成し、その計画に基づきPDCAを回すことによって、当該市場における戦略の精度を高めブランドの育成を図っていく。こうした考え方やプロセスは、まさに「ブランド育成モデル」の根幹を成すものと言える。

図4:P&Gのブランド構築モデル

 アンハイザー・ブッシュ・インベブのブランドマネジメントのフレームワークも同様だ。戦略立案機能を支えるものであると同時に、多数のローカルブランドを効果的、効率的に育成していくための共通基盤となっており、これが彼らの“勝ちパターン”を支えている。

 三つ目の「価値創出バリューチェーン」は、その名の通りとおり、ブランドポジショニングで定めた提供価値を実現し、差別化を具現化するためのバリューチェーンのことだ。主な機能としては、研究開発、商品企画・開発/マーケティング、調達、製造・物流、販促・営業・アフターセールスなどがある。グローバルで勝てるブランドを実現するためには、差別化されかつ消費者に支持される価値を継続的に創出しなくてはならないが、その価値を効率的・効果的に創出するために、バリューチェーンの各機能をどのように配置し、本社や現地でどう動かしていくべきか、ということがポイントとなる。

 例えば食品業界においては、ローカルブランドが非常に大切である。しかし、だからと言って単に多数のローカルブランドをバラバラに展開するだけでは、ひとつの企業が展開している意味がない。効率化できる部分は効率化し、しかしローカルブランドとしての独自性が必要な部分は残し、かつブランド間のシナジーを最大限追及することが必要だ。そのために、バリューチェーンの各機能の配置や本社と現地の役割分担などが極めて重要になってくる。そしてこのことは、マルチローカルブランド型の企業だけではなく、いずれのパターンでブランドを展開するにしても共通して重要なテーマである。

3.組織

図5:組織構築のポイント

 「グローバル・ブランドマネジメント・プラットフォーム」の三つ目の構成要素が「組織」である。これは、「コンセプト」や「オペレーション」を実行するための組織体制、人材、仕組みのことを指す。「組織」においては、図5に示す六つの視点が重要だ。ここでは紙幅の関係上、一つひとつを個別に詳細には説明しないが、いずれもグローバルで勝てるブランドづくりを実行していくためには欠かせないものである。

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