インドネシアのeコマース市場 現状と参入のタイミング飛躍(2/3 ページ)

» 2014年03月17日 08時00分 公開
[諏訪 雄栄(ローランド・ベルガー),ITmedia]
Roland Berger

 図3 はインドネシアのeコマース利用者が実際に利用した決済方法である。最近ではKlik BCA やMandiriInternetのようなオンライン送金やクレジットカードでの決済など、オンラインで取引が完了するケースも徐々に増えてきているようだ。しかし、大多数の取引は、Bank Transfer(ATMでの送金) やキャッシュオンデリバリーなど、「オフライン決済」で行われている。つまり、オンラインで購入の意思表示をした後、振込先口座をメモにとり、近くのATMや店舗から送金し、送金の控えをスキャンしてメールで送付、入金の確認ができて発送に至る、という「手間」をかけなければならない、ということだ。金融機関がオンライン決済への対応を進めていること、また、それに対応するサイトが増えてきていることは明るい材料ではある。しかし、インドネシアの銀行口座保有率がいまだ2割程度で、8割の消費者はオンライン決済はおろかBank Transfer も利用できないことを考えると、ほとんどの消費者にとってeコマースは便利と買い物ができる場所ではなく、「きわめて手間がかかる市場」なのだ。

図3:利用した決済手段

 物流に関しても同様の事情がある。最近になって、JNEやTiki のような現地の物流サービスプロバイダが幅広い地域をカバーできる物流網を構築し、物流環境は一変しつつある。しかし、17,000 の島からなるインドネシアで効率的な物流ネットワークを築くのは一朝一夕では不可能だ。例えば、住友商事が2012年12月にオープンしたインドネシア市場向け日用品e コマースサイト「Sukamart」は、前述のJNEと提携し、ジャボデタベック(ジャカルタ都市圏)で1〜2営業日、それ以外の地域では2〜7営業日での配送を目安としている。ジャカルタ都市圏を除けば、「日用品を買いたくて2〜7営業日待たされる」というのは、決して利便性が高いとは言えないだろう。ジャカルタ都市圏に関しても、必ず1〜2営業日で届くわけではない。ジャカルタの渋滞が世界最悪と悪名高いのは言うに及ばず、配送業者も渋滞を前に配送をあきらめて帰ってしまうケースもあると言う。あるe コマースサイトの運営者によると、「商品が届かないという問い合わせと、ちゃんと届いたかどうかの確認だけで毎日が終わる」という有様だ。

 こうした事情から、インドネシアのeコマース市場は、現時点では「そこでしか買えないもの」だけを「手間をかけて」買っている、という市場としてのみ機能している。既に先進国では市民権を得た「日常生活で買い物に行く手間を省く手段としてのeコマース」という市場を開拓できていないがゆえに、eコマース利用率と1人あたり利用額が相対的に低迷しているのである。もちろん、既に述べたとおり、大手銀行のオンライン決済への対応や大手物流企業の配送ネットワークの効率化という動きが、今後こうした課題を解決していく鍵となるのは間違いない。前述の「Sukamart」の例でみたように、特にジャカルタ都市圏に限れば、決済物流両面の課題が比較的早期に解決する可能性はある。

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