ここまで見てきたとおり、インドネシアのeコマース市場は、現時点では「ネットでしか買えない物」を「手間をかけて買っている」市場としてしか機能しておらず、「いまだB toCのビジネスとして成立する規模に至っていないし、そのメカニズムも確立できていない」。一方で、課題解決への動きは既にスタートしており、今後数年で、特に都市圏を中心に状況が一変し、市場が急拡大する可能性もある。では、日系企業にとって、インドネシアのeコマース市場にはどのような事業機会があるのだろうか?また事業機会を享受するための参入のタイミングはいつだろうか? その答えは、「eコマース市場を1 つの独立した事業として位置づけるか、チャネルの1つとして捉えるか」および「既にインドネシアに参入しているか、これから参入するか」によって異なるのではないだろうか。
図4 をご覧頂きたい。ここでは企業のタイプを、「インドネシアでの参入状況」と「eコマース事業の位置づけ」によって、大きく4つのタイプに分類した。1つ目のタイプは、既にインドネシアに参入しており、eコマースを販売チャネルの1つとして捉える企業だ。こうした企業にとっては、既にeコマース参入の本格的な検討を始めるタイミングに来ているのではないだろうか。オンラインとオフラインのそれぞれの役割、オンラインで狙うべき顧客層・地域、展開すべき製品などの検討を行い、事業機会とその規模、実現性を確認する。その上で、自社独自でオンラインチャネルを構築するか、既存のオンラインモールを活用するか、決済や物流をどのように設計するか、などを検討し、詳細にビジネスモデルを作りこめば、eコマース市場は1つのチャネルとして十分に機能させることが可能であると思われる。
次に、まだインドネシアに進出していないが、eコマース自体を1つの事業として位置づけている企業について考えてみたい。このタイプの企業にとっても、参入のタイミングは既に到来している。中でも特に事業機会が大きいと思われるのは、上述のインドネシアのeコマース市場が抱える課題を直接解決できるような商品やサービス、ノウハウを持つ企業である。例えば、エスクローサービスなどの決済代行サービス、UIに優れるサイトの構築支援サービス、コールセンター機能、SEOやクロスメディアでの集客支援などに対する需要は極めて大きく、先進国のベストプラクティスが活用できる余地も大きい。例えば、上述した既にインドネシアに事業拠点があり、eコマース市場をチャネルの1つとして立ち上げたい企業は、まさにこうしたサービスプロバイダの登場を待っているのではないだろうか。もちろんそれは日系企業だけに限ったことではないから、現地企業や欧米企業に対する事業機会も見出せるはずである。
最後に挙げられるのが、今後インドネシアへの参入を検討している企業だ。このタイプの企業にとっては、いきなりeコマースというのはハードルが高いかもしれない。弊社にも、「リアルのチャネルは複雑で非効率だから、eコマースでのインドネシア参入を検討している」といった問い合わせは多いが、これまで見てきたとおり、eコマースだけで一定の事業規模を実現するのは現時点では困難である。どのような時間軸で考えるかにもよるが、リアルかオンラインかの二者択一ではなく、まずは「どの地域をリアルでカバーし、どの地域をオンラインでカバーするか」といったような全体の参入戦略を立案すべきである。その上で、eコマースの位置づけを考えた場合、eコマースの立ち上げは必ずしも高優先順位ではないかもしれないし、また、参入と同時である必要はない、という答えが出てくる可能性が高い。
御社にとってインドネシアは戦略上どのような位置づけなのか。eコマース市場に参入することで何を実現したいのか。どのような時間軸で考えるのか。まずはこうした問いを社内に投げかけることからスタートしていくべきと考える所存である。
諏訪 雄栄(Suwa Yoshihiro)
ローランド・ベルガー インドネシアジャパンデスク シニアプロジェクト マネージャー ジャカルタ駐在
京都大学法学部卒業後、ローランド・ベルガーに参画。 日本および欧州においてコンサルティングに従事。 その後、ノバルティスファーマを経て、復職。製薬、医療機器、消費財を中心に幅広いクライアントにおいて、成長戦略、海外事業戦略、マーケティング戦略、市場参入戦略 (特に新興国)のプロジェクト経験を多数有する。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授