2020年に向けた日本の製造業の方向性――オープン&クローズ戦略に基づく「伸びゆく手」(2/3 ページ)

» 2014年09月09日 07時00分 公開
[山下竜大,ITmedia]
※本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

企業人が競争ルールを決める時代の登場

 こうした製造業の問題は、日本企業に限ったことではない。例えば、米IBMがPCのシェアを落としていった背景も、オープンな企業間分業、技術伝播、グローバライゼーションなどに象徴される経済環境に直面して競争優位を瞬時に失った。圧倒的な技術イノベーションを生み出すIBMであっても、経営危機に陥ったのであり、1988年から1994年にかけて15万人をレイオフした。当時のIBMが日本のエレクトロニクス産業と同じ状況に置かれていたのである。

 1980年代に米国は知財政策を変更した。基本思想として、基本特許を持つ企業が優位になるプロパテント政策への切り替えであり、これによって技術漏えいを防ぎながらアメリカ企業の競争力を強化した。もう1つ重要なのが、ソフトウェアに著作権を与えたことである。これによりソフトウェアを開発する企業や個人に強力なインセンティブが生れて米国のICT産業が盛んになる。現在の米国がグローバルICT産業を主導できるようになった背景がここにあったのである。

 21世紀になると、日本の製造業でもグローバライゼーションが他の多くの産業領域に広がる。このとき、付加価値の高い製品を守りながら、いかに世界中に普及させていくかが重要となる。これを実現するのが、オープン&クローズの知財マネージメント戦略思想(オープン&クローズ戦略)である。

 小川氏は、オープン&クローズ戦略の神髄は、実ビジネスにおいて、まず企業と市場の境界を設計し、次に知財権を自社のコア領域に集中させ、そしてこのコア領域と他社技術をつなぐ境界領域に知財権を集中させることだという。

もしここで、コア領域からエコシステムを介して市場支配の仕組みを構築できれば、新興国の成長を自社の成長に取り込むことができる。企業人が、競争ルールを自らの手で決める時代となったのである。

 さらにこの延長、グローバル市場の隅々にまで自社のコア技術の影響力を持たせる「伸びゆく手」の仕組みも生まれる。この考え方は、製造業でソフトウェアリッチ化が進む1990年代に、かなり大規模に普及した。小川氏が提唱する「伸びゆく手」形成という経営思想は、アダムスミスの神の「見えざる手」やチャンドラーの経営者の「見える手」などの系譜に繋がる。

広がるアップル、グーグルの伸びゆく手

 アップルの売上は、すでに2011年の時点で約8兆円を超えた。利益率は30%〜40%と非常に高い。特徴的なのは、それでも他社に比べて特許の出願登録数が非常に少ないことである。特許が日本企業に比べて10分の1もないのに、なぜアップルは1人勝ちすることができたのか。

 アップルの強みは世界中の人が欲しくなる製品を開発したことだ、と多くの人が言ってきた。しかしながら小川氏の主張は、第1に、アップルは、守るべきところと(コア領域)と守らなくてもいいところ(オープン領域)を明確化し、守るべきところだけに特許を集中してクローズ領域を完全に守っていることだ、という。オープン&クローズ戦略の徹底である。

 第2に、キャッチアップ型企業のクロスライセンス攻勢からコア領域だけを守り、価格競争を仕掛ける企業を徹底排除したことだ、という。製品価格を長期にわたり維持できる仕組みがここにあった。

 そして第3に、自社のコア領域に知財を集中させ、同時に既存技術との結合領域に知財を集中させる。同時に、境界領域の知財を公開して競合企業をパートナーに変える。この戦略が、アップルの最も独創的な点である、と小川氏は繰り返した。

 企業人が自ら世界の産業構造と競争ルールを作る時代の登場は、欧州の携帯電話やスマートフォン、ロボット、3Dプリンタ、自動車、医療機器などの分野へも次々に広がっている。そしてここで例外なく、グローバル市場をコントロールする仕掛けが作られている、という事実をわれわれは理解しなければならない。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

根来龍之

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

小尾敏夫

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

郡山史郎

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

西野弘

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

森田正隆

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆