2020年に向けた日本の製造業の方向性――オープン&クローズ戦略に基づく「伸びゆく手」(3/3 ページ)

» 2014年09月09日 07時00分 公開
[山下竜大,ITmedia]
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 例えば欧州の携帯電話市場では、携帯電話端末の仕様をオープン化(公開)にするが、携帯端末の電波を交換機に繋ぐ基地局は、完全クローズになっている。日本企業が携帯端末でいかに高い技術力を持っていても、欧州側が基地局を日本企業に公開しなければ携帯電話のサービス事業を展開できない。欧州は徹底してクローズにした基地局から、オープン標準化した携帯端末の市場に、強力な伸びゆく手を形成していた、と小川氏がいう。

 こうした伸びゆく手は、多くの産業領域に拡大している。例えば、PC市場におけるインテルモデルが、2000年代には自動車産業にも出現した。2010年代になると、スマートフォン市場のグーグルモデルさえ、自動車産業に見え隠れしている、と小川氏。

 小川氏によれば、Autosarという標準化団体が開発したベーシックOS(オープン領域)を使い、この上でアプリケーション開発の効率が飛躍的によくなる開発ツール(クローズ)を、欧州企業が提供しはじめたという。ここから新興国の自動車業界に向かって強力な伸びゆく手が形成されようとしている。

 この仕掛け作りは、グーグルの手法と全く同じである、と小川氏はいう。一見、オープンだったはずのアンドロイドOSの上にクローズな開発ツールを提供し、クローズ領域からスマートフォン市場に強力な影響力を駆使したのがグーグルであった。

先進国型製造業としての日本企業の方向性

 以上を話し終えた小川氏は、2014年現在の日本のエレクトロニクス産業を「ものづくり敗戦」という人もいるが、日本のエレクトロニクス産業は決して「ものづくり敗戦」ではない。実態経済から乖離した「為替政策の敗戦」であり、競争ルールの変化に適応できない古典的な「知的財産マネージメントの敗戦」である、と繰り返す。この問題を解決するための経営思想が、小川氏のオープン&クローズ戦略だったのである。

 具体的には、オープン&クローズの戦略思想で自社のコア領域に知財を集中させ、同時に依存技術との結合領域に知財を集中させることだ、という。さらにグローバルなビジネス・エコシステムをコントロールする「伸びゆく手」を形成する知財マネージメントが事前に設計されていればならない。

 日本企業にオープン&クローズの戦略思想が定着すれば、国内で生産してもグローバル市場で競争優位を維持できるようになり、地方に安定した雇用を提供することがでる。安定な雇用があれば若者が地方に戻り、人口も増えて地方経済が活性化する。同時に経常収支が大幅に改善し、ドイツと同じメカニズムで赤字国債の発行を少なくすることさえ不可能ではない、と小川氏が締めくくった。

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