ITを駆使した新しいビジネスを、システム部門はリードできているのか。多部門の業務にも果敢に挑み、「とりあえずやってみる」という楽観主義も持ちあわせながら、新しい姿に変えていってほしい。
3月18日に開催された「第29回 ITmedia エグゼクティブ セミナー」の基調講演に、ローランド・ベルガーのパートナーである大野隆司氏が登場。「グローバルで戦うためのIT戦略とクラウド活用」をテーマに講演した。
1967年にドイツ人のローランド・ベルガーにより設立されたローランド・ベルガーは、欧州を起点としたグローバル戦略コンサルティングファームである。グローバルに活動するコンサルティングファームは5〜6社あるが多くは北米で、欧州を起点としているのはローランド・ベルガーだけである。
現在、36カ国、51オフィス、2700人のスタッフで事業を展開。約1000件のクライアント企業にサービスを提供している。東京オフィスは1991年に設立され、現在100人のコンサルタントが、さまざまな企業にコンサルティングサービスを提供している。日本オフィスで情報通信産業グループの責任者を任されているのが大野氏である。
大野氏は、「古今集に紀友則の“ひさかたの光のどけき春の日に しづ心なく花の散るらむ”という歌があるように、桜の花は日本人にとって特別なものである。それではグローバルでは、桜の花はどのように捉えられているのだろうか。おそらく日本人が感じている桜の花とは、違うイメージを持っているのではないかと思う」と話す。
ローランド・ベルガーの東京オフィスには日本人だけでなく、中国人、韓国人、ドイツ人、フランス人のコンサルタントが在籍している。すべてのスタッフは、日本語が堪能で、それぞれの国の大学を卒業し、日本の大学院を卒業して、日本企業に勤めた後にローランド・ベルガーに入社している。
「私自身、現在はドイツの会社に在籍しているが、その前はインドの会社、その前は米国の会社で働いていた。職業柄外国人と仕事をすることが多いが、日本語での会話という点ではまったく問題ない人もたくさんいる。しかし、和歌や俳句の世界を理解するなどの文化的な面では、感覚的に通じあえないことがある」(大野氏)。
大野氏は、「文化の違いが仕事に影響するわけではない。しかし“グローバルで戦うためのIT戦略”というテーマにおいて、ダイバーシティや多様化をどのようにマネージメントするかは、IT戦略を推進していくうえで重要なポイントになる」と話している。
ローランド・ベルガーでは、「コーポレートHQスタディ」と呼ばれるサーベイを1990年より実施している。約86社を対象とした2013年の調査では、「重心の変化」「仮想コラボレーション」「サポート機能の分散」「国際化」「ロールシフト」「役割の多様化」の大きく6つのテーマで実施されている。
「企業のIT部門の多くは、本社(HQ)機能として位置づけられているが、HQに求められる付加価値は、時代により変化している。そこで、コーポレートHQスタディの結果をもとにして、グローバルで戦うためのIT戦略について、組織論的に考えることが必要になる」(大野氏)
コーポレートHQスタディの結果では、約80%の企業がビジネスの重心の変化に対応できていないと感じていると答えている。ビジネスの重心の変化とは、例えば欧州企業であれば、これまでビジネスの中心が欧州だけだったが、アフリカ地域へと拡大しているなどの変化への対応である。
2つ目に仮想コラボレーションの重要性である。これまで、欧州、米国、日本、中国、それぞれの拠点で情報を共有できればよかった。しかしビジネスの拠点が広がっていることから、拠点間のコミュニケーションや共同作業の機会が増えている。これを加速させることをHQは強く考えなければならないと考えている企業は53%になる。
3つ目のサポート機能の分散では、情報システムだけでなく、調達やリーガルなど、より大きな視点でコーポレート機能を分散し、管理していくことが必要と69%の企業が答えている。また国際化に関しては59%が強化すべき、ロールシフトに関しては55%の企業がビジネスパートナーを目指すべき、役割の多様化は77%がさらに進むと答えている。
HQが果たすべき役割は、権限の大小と共同作業の範囲により、「共通サービス提供者」「コンシェルジェ」「マネジャー」「守護者」の大きく4つに分類される。(図1)共通サービス提供者は、いわゆるシェアードサービスのようなイメージで、効率化やコスト削減に貢献することが必要。SLA(Service Level Agreement)に基づいて各拠点に共同サービスなどを提供する。
大野氏は、「情報システムで考えてみると分かりやすいが、グローバルに事業を展開している大手の金融業や製造業においても、HQが中心となってシェアードサービスを提供している企業はそれほど多くない。共同作業の範囲は広く権限は限定的ではあるが、共通サービス提供者の役割は重要になる」と話す。
またコンシェルジェでは、人や組織のコーディネーションなどを通じて、ノウハウやノウフウを共有したり、イノベーションに貢献したりすることが重要な役割となる。「コーポレートHQスタディの結果からも分かるとおり、この部分がもっとも強化すべきポイントである」と大野氏は言う。
3つ目のマネジャーの役割は、基本的にはグローバルの戦略を策定し、資源配布を遂行して、実行のマネージメントやモニーターを実施する。このPDCAサイクルは、実現している、していないに関わらず、昔から取り組まれているもの。最後の守護者は、全社的なビジョンやガバナンスの方針を策定し、違反した場合の処罰規定することが役割となる。
HQが果たすべき役割の中で、IT部門は何をすればよいのか。企業の経営トップがIT部門に求める役割は、「マネージメント・インフォメーション・システム(MIS)」「KPI/インセンティブのスキーム」「ITインフラストラクチャ」「ナレッジマネージメント」の大きく4つにまとめられる。(図2)
MISでは、グローバルにおけるオペレーションの標準化、情報提供の精度やスピード化が求められている。具体的なソリューションとしてERP(Enterprise Resource Planning)やSCM(Supply Chain Management)、CRM(Customer Relationship Management)などがある。KPI/インセンティブのスキームでは、戦略と整合した測定可能なゴールを設定し、報酬やバランスドスコアカードなどのアプリケーションを活用できる仕組みが求められている。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授