連載
» 2015年01月07日 08時00分 公開

経営トップに聞く、顧客マネジメントの極意:【新連載】お客さまを増やしたければ、非顧客に聞け! 地方路線バス会社復活の秘密に迫る (2/2)

[聞き手:井上敬一、文:牧田真富果,ITmedia]
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お客さまにとって、バスに乗るのは目的ではなく手段

野村社長(右)と聞き手の井上氏(左)

井上:他にはどのような施策をされたのでしょうか。

野村:お客さまがよく利用するスーパー、病院、市役所などの施設の場所をバスの路線図に写真入りで分かりやすく表記したパンフレットを作成しました。お客さまにとってバスに乗ることは、目的地へ行くまでの手段にすぎません。そのことをいつの間にかバス会社の私たちは忘れてしまっていたように思います。どんなにバスのすばらしさを伝えようとしても、お客さまには興味のないことです。興味があるのは、行きたい施設へバスが行くのかどうかということだけです。

 観光で十勝に来たお客さまが多数利用してくれた商品もあります。バス路線上にある施設の利用と往復のバス運賃をセットにした「日帰り路線バスパック」という商品です。路線バスの利用によって、その日のスケジュールをお客さまで調整しながら観光することができるので、自由度の高い観光が可能になります。目的地へ確実に行けるということを伝えることによって、その土地のことを知らなくても、不安を感じることなく利用してもらえるようになったのです。

 営業強化活動の対象路線数はまだ少なかったにも関わらず、3年間の営業活動の末、十勝バス全体で利用者数が前年比プラス0.5%となりました。これまでの40年間、利用者数が減り続けていたバス会社がついに利用者数増加に転換したのです。

大きな目標達成のためには、小さく始めて小さな成功体験を積み重ねる

井上:実直にバスを利用しない理由を聞いて回り、お客さまの真のニーズを探ることは、簡単そうに思えますが、実際にやってみるとそう簡単にはいかないのかもしれません。奇跡的な復活を果たした背景には、何か特別な秘策があったのだと思っていましたが、手法自体はとてもシンプルでアナログだったのですね。

野村:特別なことは何もしていません。実直に、シンプルに、非顧客の声を拾いあげて問題を見極め、解決を目指しただけです。ポイントは、非顧客に顧客でない理由を徹底的に聞き、不安を解消する施策を実行するということです。そのことが身に付くと、失敗が失敗でなくなります。うまくいかなかった理由を直接その相手に聞くことで、次に何をしたらいいのかが分かるようになるのです。そのサイクルをまわしていくと、うまくいかないままにしておくことがありません。うまくいかなかった要因を潰すことが可能になるのです。

 ひとつ秘訣があるとするなら、小さく始めるということです。組織で取り組んでいることですので、大切なのは、社員たちが成功のイメージを持てるかどうかです。小さく始めると、小さな成功体験をたくさん積み重ねることができます。大きく始めると、負担が大きくなり、困難さのイメージが先行してしまい、成功イメージを持ちにくいこともあります。小さな施策の積み重ね、小さな成功の積み重ねがあるからこそ、大きな目標を成し遂げることができるのです。

 大きな目標の達成を目指すなら、最初の小さな一歩をどこに踏み出すかが肝心です。無駄をできるだけ省き、本質は何かを見極め、できるだけ小さなアクションに分解してから取り組むことです。本質に迫っていることであれば、きっとうまくいきます。その後は結果が出たことを水平展開、垂直展開し広げていくのです。どうしてもうまくいかなかったとしても、小さく始めていれば、すぐに撤退し軌道修正もできますよ。

地域のメディアに取り上げてもらうことから話題作りを始める

井上:十勝バスが成し遂げた全国で初めてとなるバス会社の復活劇は多数のメディアに取り上げられ、話題になりました。自社の取り組みや商品をマスコミに取り上げてもらいたいと考えている会社はとても多いと思います。マスコミに取り上げてもらうためには、どのようなことに心がけたらよいのでしょうか。

野村:いきなり全国放送や全国紙、全国版の雑誌に取り上げてもらうのは難しいので、地域の新聞などで取り上げてもらうところから始めるべきです。まずは、地域の記者に何度も記事を書いてもらい、足元を固めましょう。地方とはいっても、新聞に書かれていることには信頼があります。「地域で一番」「地域で初めて」などの強みがあれば、そこから全国のマスコミへとつながる道が拓けます。十勝バスの場合は、バス会社が地域の皆さまの自宅を訪問してまわっていることにニュース性がありました。誰もしていなかったことですから。

 信憑性のあるメディアで紹介されていることで、お客さまや社会全体からの信頼度は格段に高まります。周りからの目が変わると、社員のモチベーションがアップし、会社の躍進力となります。

対談を終えて

 話を聞いていて、自分の会社の商品やサービスであっても、お客さまからの視点が抜けているせいで、強みを的確に把握できていないことが多いのではと思いました。提供する側の思い込みのせいで、お客さまが本当は何を求めているかを無視していることが多々ありそうです。「どうして利用してくれないのか?」を聞く勇気を持ち、お客さま目線からの改善が重要なのだと気付かされました。

プロフィール

井上敬一

ブランディングコミュニケーションデザイナー

株式会社FiBlink代表取締役

兵庫県尼崎市出身。立命館大学中退後、ホスト業界に飛び込み1カ月目から5年間連続ナンバーワンをキープし続ける。当時、関西最高記録となる1日1600万円の売り上げを達成。業界の革命児として、関西最大規模のホストクラブグループの経営業を経て、現在は実業家として企業、個人のブランディングやアパレル、サムライスーツなどのプロデュースを手掛ける他、人に好かれるコミュニケーションを伝える研修・講演を展開している。また、WEBセミナー「プレジデントキャンパス」により、中小企業経営者の学びの場をもっと身近なものにして日本経済を牽引する役割を目指す。

圧倒的な実績に裏付けられたコミュニケーションスキルをわかりやすく説く講演は、多くの企業・団体から支持を受けている。これまで数多くのメディアに取り上げられ、独自の経営哲学で若いスタッフを体当たりで指導する姿はフジテレビのドキュメンタリー番組『ザ・ノンフィクション』で8年にわたり密着取材され、シリーズ第6弾まで放映されている。

 主な著書に、「ゴールデンハート」(フジテレビ出版)、「人に好かれる方法」(エイチエス株式会社)などがある。


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