「X経営」の実践こそがグローバル市場における日本企業の本質的な勝ち方ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(1/2 ページ)

“失われた20年”と言われる不況の時代にも、成長している企業はあった。その企業がどのように成長したのかを学ぶ方が、失われた20年を嘆くよりも有効ではないか。

» 2014年04月30日 12時00分 公開
[山下竜大,ITmedia]

 3月18日に開催された「第29回 ITmedia エグゼクティブ セミナー」の特別講演に、一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授の名和高司氏が登場。「次世代グローバル成長を目指して 〜X経営の時代〜」をテーマに講演した。

事業モデル構築力×市場開発力が「X経営」

一橋大学大学院 国際企業戦略研究科の名和高司教授

 「マッキンゼーのコンサルタントだった1990年〜2010年の20年間の日本は“失われた20年”と言われる不況の時代だったが、この間に成長している企業はあった。その企業がどのように成長したのかを学ぶ方が、失われた20年を嘆くよりも有効と考えた」と名和氏は言う。

 この研究をもとに『失われた20年の勝ち組企業 100社の成功法則 「X」経営の時代』という著書を執筆しており、日本ではどのような企業が、どのような方法で不況の時代にも成長することができたのかを、いくつかの成功パターンを交えて紹介した。

 勝ち組企業100社を選んだ基準は単純明快である。1990年時点で売上1000億円以上の上場企業で、売上、利益、株価の3つがもっとも成長した100社である。100社のうち78%が製造業で、22%がサービス業となっている。また製造業78社のうちトップ3は、部品系が41%、特殊ケミカルが10%、食品・生活用品が8%となっている。

 この勝ち組企業100社の経営モデルをピラミッド型の4つの構造に分解。まずピラミッド型の底辺部分を現場の力で成功に導く「オペレーション力」、頂上部分を経営トップの意思決定により成功を収める「経営力」と定義。オペレーション力と経営力の間の中間部分を「事業モデル構築力」と「市場開発力」の左右に分ける。

 名和氏は、「経営学者であるピーター・ドラッカーは、経営は“イノベーション”と“マーケティング”の2つで構成されると表現しているが、これとほぼ同義である。まずお金を儲ける事業モデルを構築し、市場を開発してビジネスを拡大していくことが重要になる」と話す。

 この事業モデル構築力と市場開発力の「かけ算(×)」により相乗効果が期待できることからピラミッドの中間部分の経営モデルを「X経営」と呼んでいる。

次世代経営モデルの基本構造(出典:『失われた20年の勝ち組企業 100社の成功法則〜「X」経営の時代』著:名和高司)

勝ち組企業100社の経営モデルは4つのタイプ

 経営力、事業モデル構築力×市場開発力、オペレーション力の4つに分類した経営モデルに勝ち組企業100社の取り組みを当てはめてみると4つのタイプに分類できる。まず1つ目は、日本(Japan)のお家芸でもあるオペレーション力で成功している「タイプJ」の企業であり、勝ち組企業の過半数がタイプJに位置する。

 2つ目は、オペレーション力と経営力をダブル(W)で持っている「タイプW」である。例えば、成長力ナンバーワンの日本電産は、強力な経営力により企業買収を繰り返しながらも、買収した企業のオペレーション力を再生させることで、すべての企業を黒字化することに成功している。

 3つ目はタイプXであり、これがX経営の本質となる。タイプXでは、現場のオペレーション力を生かしながら、事業モデル構築力と市場開発力の相乗効果を創出する。4つ目のタイプZは究極の経営モデルで、4つの経営モデルのすべてを駆使する。タイプZの企業は、ダイキン、コマツ、イオンなどがあげられる。

 「タイプZは、経営トップの強力なリーダーシップが必要であるため、それほど数は多くはない。タイプXは、強力な現場力が成功のポイントなので経営トップが変わっても会社は変わらない強さがある。一方、タイプZは、経営トップが変わると会社が大きく変わる可能性もある。タイプJ、タイプWは、経済が右肩上がりの状況において主流の経営モデルであり、タイプX、タイプZは、構造変化期に適している経営モデルといえる。中でも、もっとも安定しているのがタイプXであり、タイプXこそが日本企業の本質的な勝ち方ではないかと思っている」(名和氏)

スマートリーンの実践で成功したキーエンス

 タイプXの経営モデルの実践により、勝ち組企業100社の5位になったキーエンスは、センサー、測定器、画像処理機器、制御・計測機器、研究・開発用 解析機器、ビジネス情報機器などの製造、販売を事業として展開。顧客に高い付加価値を低コストで提供できる「スマートリーン」モデルを実践している。

 名和氏は、「市場競争において、差別化でいくか、ニッチで行くか、コストで戦うかというのが米国の経営学者であるマイケル・ポーターの古典的な経営論である。多くの企業は日本の強みを忘れ、マイケル・ポーターの経営論に基づいて失われた20年を過ごしてきた」と話す。

 付加価値が高くても価格が高いとニッチになってしまう。一方、コモディティの世界に行くと熾烈な価格競争に巻き込まれる。しかしマイケル・ポーターが見逃している安くてよいものを提供するというエリアがある。「かつての日本企業は、この分野で競争力を発揮してきた。日本の小型自動車などは、典型的なスマートリーンの例である」と名和氏。

 キーエンスはスマートリーン、つまり「良いものを安く」を徹底した企業である。それではキーエンスは、いかに低コストで利益の最大化を実現したのか。名和氏は、「価格からコストを引くと利益が計算できる。キーエンスでは、これを利益と呼ばず、付加価値と呼ぶ。顧客が喜んでお金を支払う付加価値を提供すればいい」と話す。

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