連載
» 2015年06月22日 08時00分 公開

デジタルヘルスの本質を見極める視点(2/4 ページ)

[徳本直紀,ITmedia]
Roland Berger

2、デジタルヘルスの本質は何か

 前述のとおり、デジタルヘルスと一括りに言っても、その中には様々なビジネスモデルが混在しており、これから当該市場への参入を検討する企業にとっては、戦いの場の見極めは重要になってくる。例えばEMRでは、欧州ではほぼ100%普及が進んでおり、国内においても大規模病院では既に使われ始めている。EMRという分野で今後成長が見込めるのは、診療科や病院の垣根を越えて、「患者」を中心に統合されたEMRだったり、いまだ導入が進んでいない新興国への展開などが中心になるだろう。また、大きな成長が見込まれるソリューション市場においても、現在の将来予測シナリオは期待値含みの楽観的な数値である感は否めなく、ポテンシャルだけでビジネスチャンスと捉えるのは難しい 。ビジネスモデルを論じるうえでは、我々はデジタルヘルスの本質的な価値をきちんと理解しなくてはならない。

 そもそも医療の世界の至上命題は、「医療の質の向上」と「医療コストの抑制」という二律背反をどう克服していくか、という点にある。したがって、「デジタルヘルス」の本質的価値は、「デジタル」を活用した創造的なアプローチでこの二律背反を解くことにあるのではないだろうか。具体的には、以下のような価値貢献がデジタルヘルスに求められている役割であると考える。(図B参照)

図B:デジタルヘルスの本質

(1)医療の質を高めるデジタルヘルス

 我が国をはじめ、先進国は今後高齢化社会へと突入し、診断・治療・観察等の医療サービスや福祉・介護まで様々な分野で対応力の強化が求められている。また、新興国においてはそもそも医療インフラが未熟な中で、いかにより多くの患者にアクセスできるかが課題となっている。かかる状況におけるデジタルヘルスの価値は、より『つながる』ヘルスケアソリューションの提供による時間・距離のギャップの解消である。

 シスコシステムズ社の提供する院内連携システムや地域医療連携システム等のソリューション、GEヘルスケア社の携帯型超音波診断装置のポケットエコー等がそれに該当する。よりタイムリーに物理的な距離のハードルを越えて医師同士が、もしくは医師と患者がつながることで、これまでの医療ロスや、そもそもの医療サービスが行き届かなかった患者へのアクセスが可能となる。

(2) 医療費を抑制するデジタルヘルス

 医療の質を高めると同時に、デジタルヘルスソリューションに対するもう一つの大きな期待は医療費の削減に貢献することである。先進国においては、政府支出に占める医療費の割合は年々増加傾向にあり、今後の医療支出の抑制は大きな課題である。(図C参照)

図C:主要先進国における政府支出に占める医療費の割合

 2020年に向けてデジタルヘルス市場がグローバルで1,000億ドル以上の規模になると想定すると、この1,000億ドルのマーケットは現在の医療支出に単純に追加されるのではなく、むしろ、他の医療支出のカテゴリにおいて1,000億ドル以上の削減効果がないと意味はない。この医療費削減のソリューションこそが、これまでの患者・医療機関・保険者が互いに利益相反関係にあった縦割り型のヘルスケアシステムにメスを入れるものである。

 特に、治療の前後のバリューチェーンにあたる『予防』と『患者管理』において適切なソリューションを提供することは、医療費削減に貢献する可能性が高い。

 例えば、予防においては、スマホアプリ等、個人レベルでアクセス可能なアプリケーションを情報提供のプラットフォームにすることで、これまでの医療機関と患者の間の情報格差を埋め、より適切な予防・治療アクセスができるようにすることが考えられる。

 また、治療後の患者管理においては、服薬コンプライアンスが現在大きな課題となっており、患者のモニタリング等にICT技術や、アプリケーションを活用することで、より効果的な在宅治療が可能になる。

 こういった、デジタルヘルスにおける本質的な価値を見極めたうえで、どういったビジネスモデルを自社のリソースを用いて( もしくは外部リソースを活用して) 構築すべきかを検討していくことが求められる。

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