デジタル化された産業経済を前提に、エンタプライズITも変わらなければならない。デジタル化は、未来はもとより今この瞬間にも、心躍る可能性の広がりを見せている。しかし皮肉なことに、第2の時代−つまり、ITの工業化が進んだ時代にIT部門が学んだ慣行や行動は、第3の時代での可能性の視野を狭めている。そこには2つの問題点がある。
1つは、社内の同僚のみを顧客として扱っていること(「社内ビジネス・プロセスの改善」という視点がすべてであるため)、2つ目は、同業種のベストプラクティスのみを参考に「インサイド・アウト」の持続的な効率化を目指していることである。
第3の時代でIT部門に求められていることは、デジタルでイノベーションを起こそうという新しい発想、つまり、「デジタル・ドリーム」を夢見ることである。そして、同僚と緊密なパートナーシップを築き、新しいトレンドの可能性を理解した上で、その夢を試行錯誤しながら、とにかく実行してみることである。
ビジネス部門をIT部門の顧客として考え、IT部門の最大の目標を「御用聞き」におくことは誤っている。「パートナーシップ」という言葉は長年、IT業界で誤用されてきたのでさらに注意が必要である。
IT部門は、自社のデジタルな未来を共に発見し、考案していく真のパートナーとして同僚を扱い、最終顧客を真の顧客と考える必要がある。さらに発展的になるためには、社外に存在する顧客をパートナーとして扱うことができるならば、顧客とともに未来を創出する機会すらある。
そうすれば、ビジネスを牽引できる最高のIT部門となるだろう。イノベーションの多くは、ビジネスに関するわれわれの既存思考に大きな破壊をもたらす。そして、デジタルな未来の全容は、少なくとも既存のビジネス・プロセスの改善という視点では説明することはできない。この点をCIOとIT部門は認識しなければならない。
顧客経験価値(カスタマー・エクスペリエンス)、デジタル化された商品(自動車など)、デジタル・コミュニティ、そしてデジタル化を前提とする企業の意思決定(新規市場参入や創出など)。これらはすべて、社内のビジネス・プロセスを安全かつ着実に改善するという話ではない。より広く、より深く、より迅速な思考が必要だ。
第3の時代の主要アクティビティは、(コスト削減などの)定量的な改善ではない。情報とテクノロジが企業で引き起こす根本的な変化である。CIO とIT部門の役割と、ビジネス部門の期待を再考し、現状を脱却する必要がある。それこそが、エンタプライズIT の第3の時代へとシフトするということである。
ただし、このようなシフトを図りながらも、既存のITデリバリおよびITの持続的な改善という重責は果たさなければならない。これは、CIOとIT部門のチャレンジである。このシフトを成功できれば、企業は莫大な価値を創出できる。そして、CIO とIT部門は新たな役割を担い、信頼を高めることができる。逆に、それができない場合、ビジネスは失敗する恐れが強い。その時、IT部門の存在意義は、ほぼ確実に消滅するだろう。
ガートナーのマネージング バイス プレジデント 兼 最上級アナリストであるクリス・ハワードは、「西暦2000年問題という危機は、発明マニア化したIT部門に先見性がなかったことの結果でもある。しかし、同じリスクが第3の時代にも内在する。イノベーションの変化の速さにより、長期的な先読みができないということでもある。第3の時代は、過去の2つの時代の教訓の上に構築されなければならない」と言う。
ガートナー CIOサーベイ2015では、第3の時代を牽引すべき主役となる人物は誰だと考えるかを聞いてみた。結果は、図2の通りだ。グローバルでは、約半数のCIOが自分自身だと回答している。ビジネス部門のリーダーや、CMOなどを断然引き離して堂々のトップである。しかし、日本のCIOの回答は、若干気がかりだ。4職種の中では、CIO自身が1位ではあるものの、その他や事業部門のリーダーとも僅差である。グローバルのCIOに比べて、自分自身がやらなければならないという自覚が薄いということだろうか。
そして、ガートナーでは、同じ質問をCEOにもしてみた。結果は、図3の通りである。グローバルでは、「その他」がダントツの1位であるが、次いでCIOを挙げているのが分かる。ガートナーは、その他の回答が多いことについて、CEOから見た場合に、デジタル・ビジネスには、誰かの強いリーダーシップで推進するというものではなく、チームプレーで挑むべしと考えているからだと見ている。
次は、日本を見てみよう。その他がダントツの1位であることは、グローバルと同じ傾向だが、たいへん残念なことに第2位が事業部門リーダーになっている。というより、最下位にランキングされるという情けない状況になった。CIO自身の自信の無さが、CEOの回答に影響を与えたのか、常日頃のCEOの態度がCIOの自信をなくさせたのかは分からないが、グローバルとの相違は明らかであると言わざるを得ないだろう。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授