「顧客企業からの問い合わせや商談が今春から増えてきたが、それでも予想よりもやや遅い」と話すのは富士通マーケティング GLOVIA事業本部で顧客企業のマイナンバー制度対応を支援する古瀬健二氏だ。同社では、人事・給与、会計のパッケージであるGLOVIAのマイナンバー制度対応版を順次提供しており、既存ユーザー企業の支援に務めている。
「大手企業は早めに準備を始めているが、規模が小さくなると、情報システムの対応は大半がこれから。まずは退職者などの対応を手作業で進めておき、すべての従業員が関わる年末調整に合わせて情報システムの対応も図っていく企業が最も多いとみている」(古瀬氏)
好意的に解釈すれば、コンピュータやシステムの改修以前にやるべきことが多いので、まずは現状の個人情報保護に関わる取り組みから見直し、業務プロセスまで踏み込んで検討している段階とも考えられる。「今一度、制度対応しなければならない業務領域をしっかりと洗い出しておく必要がある」と木田氏は話す。
これまで見てきたような従業員に関する制度対応はもちろんのこと、保険会社や証券会社などの金融機関は、税務署に提出する法定の支払い調書に顧客の個人番号を記載する必要がある。
一般企業にも厄介な領域がある。「見落としがちなのが、事業に協力してもらっている個人事業主への支払いだ」と木田氏は指摘する。フリーランスのライターに中核となる業務を発注している出版社の原稿料支払いなら分かりやすいが、例えば、送電線を設置している土地権利者への謝金支払いや、同じように自販機設置の謝金支払いとなると見落としがちだ。
「個人事業主も事業の基盤を支えてくれる大切な事業パートナー。その個人番号の漏えいは、信用を失墜させてしまう」と話すのは、富士通 次世代電子行政推進室長の錦織康之氏。製薬会社は医師に新薬の治験を依頼することがあり、その際の謝金支払いにも対応が必要となる。製薬会社にとって医師は顧客でもあるため、その個人番号の取り扱いは極めて慎重に行う必要がある。
「公平・公正な税が狙いである以上、社会基盤が整い、議論が進めば、マイナンバーの利活用は拡大されるはず。企業は制度の変更に合わせて柔軟に取り組む必要があるし、個人を特定する番号を利活用した新たなビジネスも考える企業も現れてくるだろう」と錦織氏は話す。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授