鋼鉄より強い「人工クモ糸」実用化へ ベンチャーが「THE NORTH FACE」とパーカーを共同開発、商品化へ

ベンチャー企業・Spiberとゴールドウインが人工的に合成したクモ糸繊維のパーカーを共同開発。2016年内に商品化を目指す。

» 2015年10月08日 18時24分 公開
[片渕陽平ITmedia]
photo MOON PARKA

 新素材を研究・開発するベンチャー企業・Spiber(山形・鶴岡市)は10月8日、人工的に合成したクモ糸繊維を使ったパーカー「MOON PARKA」を、アウトドア用品ブランド「THE NORTH FACE」のゴールドウインと共同開発したと発表した。来年中に商品化を目指すという。

 鋼鉄を上回る強度とナイロンを上回る伸縮性を持つという新素材繊維「QMONOS」を使用している。クモ糸の主成分であるタンパク質を微生物に作らせ、ポリマーを化学繊維のように紡糸・加工して用いる人工合成クモ糸素材で、Spiberが世界で初めて開発に成功した。

 試作品の「MOON PARKA」は、ゴールドウインのアウトドアブランド「THE NORTH FACE」のアウタージャケット「ANTARCTICA PARKA」をベースに制作。世界で初めて、実際のアパレル工業ラインでの製造に成功したクモ糸素材の服だとして、「これまで困難だとされてきた新世代タンパク質素材の実用化に向け、大きな一歩を踏み出した」と胸を張る。

photo 人工クモ糸素材「QMONOS」
photo クモの糸は鋼鉄の300倍以上の強度

 極地の激しい雨風や雪に耐える一方、動きやすく軽いパーカーを目指した。ゴールドウインの渡辺貴生専務は「従来の課題だった耐久性と伸縮性の両立を叶える素材。協業に迷いはなかった」とポテンシャルの高さを評価する。

 Spiberの関山和秀代表によると、クモ糸素材はナイロンやポリエステルに比べて製造コストが高いのが商品化のネックだったという。タンパク質を生み出す微生物のDNA配列を操作し、7年間で656通りの遺伝子を作成。生産効率を改善し「石油由来の繊維と同等の水準で量産化できる段階に近づいた」としている。今後はアウトドア製品以外にも、自動車部品や医療機器への活用も視野に入れる。

 Spiberは第三者割当増資を実施し、総額95億8416万円(ゴールドウインによる出資30億円を含む)を調達。生産ラインや研究施設を拡大するとともに、ゴールドウインの研究者を招き、企業の垣根を越えて2016年内の市場投入を目指す。「商品化への課題は山積み。デザインや縫製の情報を交換しながら、分子レベルで設計を見直していく」(関山代表)。

photo 関山和秀代表(左)、渡辺貴生専務(右)

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