コミュニケーションは話すことだけでは成立しない。相手の話をしっかり聞くことができなければ、何を求めているのか的確な話を繰り出すこともできない。コミュニケーションはキャッチボール。
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ビジネス書の著者たちによる連載コーナー「ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術」バックナンバーへ。
ビジネス書をつくるという仕事柄、売れている本には当然、アンテナを立てていますが、数年前のあるブームにちょっと違和感を持ったのでした。当時、「話し方」の本が爆発的に売れていたのです。
もちろん、話し方を学ぶことは、コミュニケーションを追求する上でとても大事なことです。しかし私は、ことビジネスに関していえば、「話し方」以上に、「聞き方」のほうが重要なのになぁ、と感じていました。
コミュニケーションは話すことだけでは成立しません。むしろ相手の話をしっかり聞くことができなければ、相手の求める的確な話を繰り出すこともできない。コミュニケーションはキャッチボールです。お互いが一方的に話をしているわけではないのです。ことビジネスに関しては、なおさらです。
実際、こんな話をインタビューで聞いたことがあります。ある著名な方がリゾート会員権を買おうとしていた。大好きなテニスを楽しめるリゾートに関心を持っていたのです。
問い合わせをしてやってきたのが、男性の営業マン。彼はやってくるなり、おもむろに自社のパンフレットを広げ、自分たちの会社がいかにたくさんのリゾート施設を持っているか、流ちょうに説明したそうです。著名な方は、あっけに取られていました。
「この営業担当者は、私が知りたいことを話してくれるのではなく、自分がしゃべりたいことを話している」
結局、営業マンにはお引き取り願ったそうです。こんな営業マンからは、とてもリゾート会員権を買うことなどできない、なんと失礼な営業マンなのか、と。さて、この営業マンがどんなミスを犯したか、お気づきでしょうか。
リゾート会員権といっても、さまざまなものがあります。エリアも全国、施設も大規模なものから小規模なものまで、さらにどんなスポーツに対応しているかも、施設ごとに異なる。
営業マンが行うべきは、その著名な方がどんなリゾート施設を求めているのかを、まずは聞き出すことだったはずです。何が目的か。どんな施設が好みか。どんなエリアが理想か。移動手段はクルマか電車か。スポーツの趣味は。家族構成は……。
こうして相手のニーズをしっかり聞き出さなければ、相手が満足する適切な提案など、できるはずがないからです。ところが、いきなりパンフレットを広げて自分がしたい説明をしてしまった。うまく話そうとしてしまった。こうして、逆に相手からの信頼を失う羽目になってしまったのです。
取引の話だけではありません。例えば、上司から仕事をお願いされた部下。仕事を依頼されたとき、何よりもやらなければいけないことは、上司がその仕事についてどんなことを求めているのか、しっかり聞き出すことです。
依頼された書類は、誰が見るのか。何のために作らなければいけない書類なのか。どんなアウトプットイメージを持っているか。どのレベルのものを望んでいるのか。データはどういう形式で見せるのがいいか……。
こういうことをしっかり聞いて初めて、上司が求めている仕事に応えることができる。ところが、聞かなければ分からないのです。ぼんやりとしたアウトプットのイメージ共有だけで仕事をしてしまうと、「お願いしたのは、こんなものではなかったんだよ!」というようなことになってしまう。
求められているのは、「聞く」ことなのです。聞かなければ、相手が求めていることは、分からないのです。
もっといえば、ごく普通のコミュニケーションでも同じです。そもそも相手のことがよく分からなければ、どんなにしゃべりがうまくても、いいしゃべりはできないでしょう。相手が興味のないことを、ペラペラしゃべって評価は得られるでしょうか。
相手のことが分かって初めて、相手が求めるしゃべりができる。相手にいろんな話を聞くことによって、それは分かるのです。いくら話し方を学んでも、相手が求める話ができなければ、うまくしゃべれても、いいコミュニケーションにはならないのです。
つまり、相手のことを知ることができるのは、聞く力があってこそ。そして、聞く力があるからこそ、話す力も生きてくる。会話も続いていくのです。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授