「ケンタッキー流部下の動かし方」――誰でも部下の気持ちに火を付け動かすことはできるビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(1/2 ページ)

くすぶっていた50代半ばの店長が、売上高伸長率、お客さまからの体験評価で日本一になり、世界各国のトップ店長が集まる会議で日本一の店舗として表彰されるまで。

» 2018年03月01日 07時01分 公開
[森泰造ITmedia]
※本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

 この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。


ビジネス書の著者たちによる連載コーナー「ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術」バックナンバーへ。


くすぶっていた店長でも日本一になれる

『ケンタッキー流部下の動かし方』

 まず、私がKFCでスーパーバイザーをしていたとき、店長に対してリーダーシップを発揮できた事例を紹介しましょう。その店舗は地方のショッピングセンターのフードコートにありました。K店長は当時50代半ば。超ベテランの店長です。私はその上司、スーパーバイザーとしての立場でした。私にとっては年上の部下ですね。ベテランですが、前任の上司とうまく関係性が築けなかったのか、後ろ向きの発言をする店長でした。

 店舗の状況は、売り上げはショッピングセンターもKFCも前年と変わらない状態が続いていて、いわゆる前年対比100%の状態です。アルバイトさんが25人くらいいるのですが、1年で全員が入れ替わる、あまり定着しない店でした。そのせいかクレームも少なくなく、特に商品説明がうまくできなかったり、入れ間違いがあったりしていました。

 私の戦略は、まずK店長が店長らしさを発揮して、影響力のある店舗にすること。店舗の組織としてのトップはK店長ですから、自身が魅力ある目標を設定しそこに向かって成長しながら意欲を持って取り組めるように導かなければ未来は創れないというのが私の当時の考えでした。そのためには、K店長の大切にしたいことと、KFCの大切にしたいことを合致させること、そしてK店長の大切にしたいことを理解することにしました。

 普通に話をしても、通り一遍の表向きの目標設定しかできません。まず胸襟を開かせるために、K店長本人の気持ちが上がっていた頃の質問をしました。入社時、店長昇格時、結婚時、子どもが生まれたとき、相手の感情がゆるんだときに、「そもそもどうなりたいのか?」と質問しました。

 すると、その時の話をしてくれました。人は過去の話をするときには、眠っていた記憶を引っ張り出し、それを頭にイメージしながら話します。だから、その時の感情もよみがえってくるのです。加えて、それを私が丁寧に聞くことで、そのイメージを共有できるのです。ラポール、信頼関係は共有体験から生まれます。よかったころのイメージを共有し、信頼関係ができたところで改めて、K店長にどうしたいのか? と聞きました。

 分かったことが3つ。(1)KFC、商品へのこだわり(2)家族や従業員を大事にしたい気持ち(3)会社への諦め感でした。そこで、商品と人を大切にできるK店長にしかできない店舗づくりを目指すことを2人で決めました。

 その後は、私は巡回のたびに決めた「商品と人を大切にできるK店長でしかできない店舗」に焦点を当てて、徹底的にK店長の行動を観察し、フィードバックをしました。例えばチキンの作り方を教えている店長を見ては「チキンを大切にしているK店長だから、丁寧に教えていますね」、ちょっと違った行動が見えたときには「それってどんな意図でやっているんですか?」と質問をする、商品や従業員へのこだわりが感じられた点を見つけては、称賛を繰り返しました。

 すると、だんだんK店長の行動範囲が広がってきたのです。それまでどちらかといえば、厨房(ちゅうぼう)か事務所にいることが多かったのに、カウンターのアルバイトに指導したり、カウンターの前に出てお客さまと話したり、ショッピングセンターのなかでチラシを置いてくれるように働き掛けたり、これまでとは大きく違い行動量が増えました。そして、笑顔が増え、自分の大切にしたいことを口にするようになってきたのです。

 次第にそれまで散見されていたクレームがなくなり、逆に称賛を受けるようになりました。「最近サービスがよくなったね」とか「活気があるね」とか。そして、その月から売り上げが前年に対し10%アップしたのです。この状態は1年続きました。

 結果、アルバイトは辞めなくなり、そのうちの1人は社員になりたいとまでいうようになりました。今もその社員は店長目指して頑張っています。さらに、売上高伸長率、お客さまからの体験評価で日本一になり、世界各国のトップ店長が集まる会議で日本一の店舗として表彰されたのです。

リーダーシップ発揮3つのポイント

 では、私が発揮したリーダーシップのポイントについて話しましょう。ポイントは3つです。(1)ビジョンを描いた(2)コーチングを習慣にした(3)支援環境を整えた

まず「ビジョンを描いた」は「チキン、商品と人を大切にできるK店長にしかできないONLY1の店舗づくり」です。これをK店長と共有しました。そのことで、私とK店長の間にブレナイ軸ができたのです。

 次に「コーチングを習慣にした」です。K店長との会話は、常に「どうなりたいのか?」なりたい自分を考えてもらうよう質問とフィードバックを心掛けました。私自身の考えを発することなく、KFCの理念とK店長のこだわりの共通点を探し、それを実感してもらえるような質問をしたり、K店長の全てを理解したりするようにしました。K店長の行動は、必ずその意図をくみ取り、分からなければ質問して確認しました。これにより、K店長は常に考えを話すようになったのです。

 「アドバイスしたら終わり」は私の講座で必ず伝える言葉ですが、上長が「あれしなさい、このやり方はこうだ」と指示すると、部下はその通り動こうとしますが、考える習慣は付きません。だって命令を聞いてその通りやるだけでいいんですから。自ら考え行動できるようになるには、自ら考えるようにコミュニケーションを変えないといけませんよね。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

根来龍之

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

小尾敏夫

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

郡山史郎

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

西野弘

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

森田正隆

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆