販売至上主義で売れた時代はとうの昔に終わり、いまや「売らない店」が時代の最先端になっている。
この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。
ビジネス書の著者たちによる連載コーナー「ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術」バックナンバーへ。
「日本のビジネスパーソンは正しい売り方を知らない人が多い。これが会社に閉塞感が漂う大きな原因の一つだ」というのは、マーケティングのプロとして「100円のコーラを1000円で売る方法」(シリーズ60万部)、「これいったいどうやったら売れるんですか?」(10万部)、「世界のエリートが学んでいるMBA必読書50冊を1冊にまとめてみた」(6万部)などのベストセラーを手掛けてきた永井孝尚さんだ。『売ってはいけない 売らなくても儲かる仕組みを科学する』(PHP研究所)を出版した永井さんに、話を聞いた。
最初に、2つの事例をお話しします。
ある会社で、営業責任者が社長に就任しました。彼の口癖は「数字は人格」「セールスが一番偉い」。社員には「大事なのは売上。今期売上に関係ない活動はやめろ」と厳命。目標達成が厳しくなると、社内会議は全て中止。全社員が売り子にかり出され、営業成績優秀者には青天井のボーナス。ノルマ未達者は厳しく処遇。
就任直後からカンフル剤を打ち続け、売上は伸びました。しかし、こんなむちゃは続きません。その後間もなく、会社は低迷を始めました。パワハラ問題で社長は辞任。社内がバラバラになった会社は、立て直しの真っ最中です。
社名が分からないように話を丸めていますが、私が関わった会社の実話です。
経営レベルに限らず、現場も同じです。こんな電話を受けたことのある人は多いのではないでしょうか?
「〇〇社の□□と申します。お得な分譲マンションのご案内でお電話を差し上げました」
「どちらにおかけですか?」
「いまお電話を差し上げているお客さまに、お電話しているのですが……」
「ですから、電話をかけている相手は、どなたですか?」
「……電話番号リストの順番に、電話しているんですけど」
売り込み先が誰なのか、当の本人も知りません。こんな売り方で売れたら奇跡です。ちなみに固定電話の時代は、受話器をテープで手に固定し一日中電話をさせ、強引に粘ることもあったそうです。
「いくらなんでも自分は違う」と思うかもしれませんが、本当にそうでしょうか? 事前調査をせずに、「とにかく件数」と飛び込みセールスをする人はまだいます。
販売至上主義で売れた時代は、とうの昔に終わりました。世の中は急速に変わっています。
いまや「売らない店」が時代の最先端になり、商品開発の方法論もまったく変わり、流行のサブスクは従来の売り方では失敗するし、カスタマーサクセスというまったく新しい仕事も生まれています。
しかし世の中ではいまだに昭和時代の「大量生産し、安価で大量販売」のやり方が主流です。現場は疲弊し、お客は怒って逃げ出し、企業は儲かりません。みな苦しんでいます。話題になったかんぽやレオパレスなどの不祥事の裏には、こんな間違った売り方が隠れていることも多いのです。
問題の根っこにあるのは、「売ること」しか考えていないことです。ほんのちょっとだけ視野を拡げてみると、まったく変わってきます。「マーケティングの究極目的は、販売を不要にすることだ」と言ったのは、かのドラッカーです。必要なのは、販売至上主義からマーケティング発想への転換なのです。
マーケティング発想がないから、いくら頑張って売り込んでも、儲からないのです。売ることが、全てダメなのではありません。売ることしか考えていないのが、ダメなのです。
マーケティング発想で、ムリに売らずに自然に売れる仕組みを考えるべきです。お客は幸せになり、売り手が疲弊することもなくなり、より幸福な世の中になります。
そこで本書では、ありがちな「売ってはいけない」ケースを取り上げ、理由を解明し、どのようにすれば売れるようになるかを、テーマ別に6章構成で具体的に考えていきます。
第1章では、無理に売るのをやめて成功した事例を取り上げ、その理由を掘り下げています。
第2章以降では、具体的な方法を紹介していきます。
第2章は「販売戦略」。「お客さまは神様」と考えて売ると、逆に売れなくなります。
第3章は「顧客」。私たちは意外と顧客のことを知りません。
第4章は「プロモーション戦略」。目立つだけでは売れない時代です。
第5章は「商品の戦略」。「商品開発」という発想自体を変えることが必要です。
第6章は「価格戦略」。売れる価格だからといって、売ってはいけないのです。
最後に「長めのあとがき」で、売る仕組みを定着させる方法を考えていきます。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授