【新連載】これからの企業が求めるのはITとビジネスの本質を理解した「ハイブリッド型人材」「等身大のCIO」ガートナー 浅田徹の企業訪問記(2/2 ページ)

» 2019年11月20日 07時21分 公開
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――確かに、ITを軸にしておけば、どんな業界でも仕事はできますね。まったく同じ考えで、私自身も日本銀行からガートナーに転職したのですが、転職するときに多くの人から「大丈夫か!」と心配されました。ただ、ITを軸にしておけば、パブリックセクターからプライベートセクターに、ドメスティック組織からグローバル組織に、ITのユーザー部門からITの提案部門に変わっても大丈夫という変な自信がありました。実際に転職してみて、何とかなっている気がします(笑)。ところで、転職してみて、視野が広がったと感じるのは、どんな点でしょうか。

 もちろん視野も広がったし、常に真新しい状況に対応しなければならないので自信もついてきます。クレディセゾンは、ものづくりをしない初めての会社だったので、そこは新鮮でした。金融サービスは、ビジネスが情報処理そのものです。クレディセゾンという会社が、市場で生き残っていくためには、ITシステムの強化が必須です。そのためには、強いIT部門を持つことが不可欠です。

情報システム部長とCIOの違いは最終的に経営にまで責任を負うこと

――CIO職に対しどのようなイメージを持っていますか。

 日本企業では、情報システム部長はいても、CIOがいない会社はまだまだ多いと思います。情報システム部長とCIOの違いは、情報システム部長はIT分野だけが責任範囲ですが、CIOはIT分野だけでなく、最終的に経営にまで責任を負うことです。経験を積めば、積むほど、会社の事業の仕組みを組み立てるのがCIOの仕事であると感じています。

 もちろん、視点も大きく変化します。情報システム部長の視点は、いかに業務を効率化するかですが、CIOの視点は、いかに会社に利益をもたらすかも必要になります。

――基本的に、情報システム部長はITを理解していれば務まりますが、CIOはITとビジネスの両方を理解していることが必要です。中でも重政さんは、いろいろな業界のビジネスを経験しているのが強みだと思います。経験上、これからのCIOには、どのような人材が求められるのでしょう。

 CIO職に限りませんが、これからは「ビジネスとITのハイブリッド型人材」が必要であり、そういう人の価値が高まると思います。特に金融サービスは、業種に関係なくサービスを提供しなければならないので、経営者から現場の担当者まで、ハイブリッド型人材が必要です。いまやITシステムを抜きにビジネスを考えることはできません。

 ただし、プログラミングをした経験が必要なのではなく、ITの本質、ビジネスの本質を理解していることが重要であり、そういう人材を育成していくことが大切です。

――クレディセゾンのCIOとして、チャレンジはどんなことなのでしょう。

 課題は山ほどあります(笑)。現在、クレディセゾンは、曲がり角、転換期にあり、経営の舵を大きく切ろうとしているところです。これにあわせて、ITの役割はもちろん、IT部門の働き方改革も実現していかなければなりません。これは、CIO 1人の仕事ではなく、会社全体の仕事です。

 ちょうど大規模ITプロジェクトが終わったところなので、真っ白なキャンバスに絵を描くというよりは、既存のシステムを生かしながら次の変革を進めるという、非常に大きなチャレンジになりそうです。

 また、多くの企業が、デジタルトランスフォーメーション(DX)を目指していますが、これは一過性のブームではなく“やるべきこと”の1つです。現在、DX抜きにビジネスを考えることはできません。DXは当たり前のことなので、5年後、10年後には、DXという言葉はなくなっているでしょう。

 クレディセゾンもDXに取り組んでいますが、いきなり「これからはDXだ!」といったところで、理解できる人もいれば、できない人もいます。正解のないパズルを組み立てていかなければなりません。そのためには、理解している人、していない人をうまく組み合わせ、足りないピースは社外から採用することで、パズルを完成させなければなりません。

――現在、ITの活用にあたり、IT部署、ビジネス部署、そして社外の人材も含め、必要に応じて適材適所で取り組む「ダイナミックソーシング」という考え方もでてきています。それも含め、今後のCIOやITに関わる人たちには、どのようなマインドセットが必要になるのでしょう。

 これまでのような「ITの御用聞き」ではだめだと思います。事業会社のIT部門は、間違いなく経営に近い立ち位置でものづくりを考えることが必要です。ほかの企業では、要素技術の部分でとことん技術を突き詰めることは必要ですが、クレディセゾンのような会社では、要素技術は外部から調達し、ビジネスの組み立てに注力することが必要です。

 新しいサービスを提供することが、1つの演劇だとすれば、役者は業務部門であり、ITの役割は大道具さん、小道具さんのようなもの、経営はプロデューサーになります。ユーザー企業のIT部門は、特にこの傾向が強くなると思います。

――最後に、次の世代のCIOを目指す人たちにメッセージをお願いします。

 次の世代の人たちには、常に変化していく時代の中で、新しいものを追いかけて吸収するという意識を持ってほしいと思っています。失敗してもいいので、新しいことをやって、経験を肥やしにすることが必要です。今後のCIOは、会社の根幹となる分野はしっかりと守り、新しい分野では果敢に攻める企業文化を、バランスよく醸成することが求められるはずです。

クレディセゾン 重政氏(左)、ガートナー 浅田氏

対談を終えて

前任の重富さんの後を受けて、このコラムを担当させていただきます。

私は、CIO向けのアドバイザリという仕事柄、日頃多くのCIOの方々と接しています。そこで感じることは、彼らが高いパフォーマンスを発揮しているのは、単にITやビジネスが分かるだけでなく、人生で磨いてきた能力や、大切にしている信条、蓄積してきた経験といった、人間としての総合力が高いからだということです。

今回ご登場いただいた重政さんは、こうした総合力を備えた方だと常々感じていました。読者の皆さんにご紹介できて、とてもうれしく思います。他にもぜひご紹介したい方々がたくさんおられますので、これから順次ご登場いただきたいと思います。

現在、デジタル化が進むなかで、ITをビジネスと結び付け、経営に貢献するCIOの役割はますます重要になってきています。このコラムでは、その業績だけでなく、人物像そのものにも焦点をあて、まだまだ日本では認知度が十分でない「CIO」という役割について、理解を深められればと思います。

プロフィール

浅田徹(Toru Asada)

ガートナージャパン エグゼクティブ プログラム バイスプレジデント

2016年7月ガートナージャパン入社。エグゼクティブ プログラム エグゼクティブパートナーに就任。ガートナージャパン入社以前は、1987年日本銀行に入行し、同行にて、システム情報局、信用機構室、人事局等で勤務。システム情報局では、のべ約23年間、業務アプリケーション、システムインフラ、情報セキュリティなど、日銀のIT全般にわたり、企画・構築・運用に従事。とくに、日本経済の基幹決済システムを刷新した新日銀ネット構築プロジェクト(2010年〜2015年)では、チーフアーキテクトおよび開発課長として実開発作業を統括。2013年、日銀初のシステム技術担当参事役(CTO:Chief Technology Officer)に就任。日銀ITの中長期計画の策定にあたる。

2018年8月、エグゼクティブ プログラムの日本統括責任者に就任。

京都大学大学院(情報工学修士)および、カーネギーメロン大学大学院(ソフトウェア工学修士)を修了。


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