パフォーマンスは「つなぐ」はあくまで手段、つながるだけでハピネスとするスモールハピネスとは対照的。
今回はスモールハピネスの事例を2つ紹介します。対照的な事例です。
最初の例は私(キャメル)がコンサルタントになりたてのころの話です。
私は、霞が関で官僚の仕事を10年した後、転職して米国の人事系コンサルティング企業Xの日本の現地法人でコンサルタントとして働き始めました。
当時、同社の規模は小さく、入社して数カ月もすると、小さな顧客には1人で営業にもコンサルティングにも行くようになりました。職務評価の仕組みと職務ベースの報酬制度、業績管理制度を売るのが仕事でした。
この仕事のベテランになれば、職務評価や報酬制度や業績管理について熟知している上に、実際の導入事例をよく知っていますから、刺さる営業やコンサルティングが可能です。しかしビギナーの私にはそんな知識や経験は全くありません。顧客の所でも、X社の短期間の研修で習ったことをそのまま話すことで精いっぱいです。
そのかわり顧客の話をよく聞き、ノートもまじめにとりました。売るとかコンサルティングを提供するとかより、学んでいる感じで、実は意外にハッピイでした。特に、職務に焦点を当てて話を聞くおかげで得られる、人々の仕事ぶりについての実践知が気に入っていました。
しかし、その後、仕事に慣れてくると様相が一変します。顧客の話を聞くのは、あくまで売ることやコンサルティングをスムーズに行うための手段です。そうなると、自社のサービス・製品を売るのに必要なポイントのみを、なるべく早く聞き出そうとするし、それ以外の話には注意を払わなくなります。
そもそも話を聞くというインプットよりも、こちらの話を聞かせるアウトプットの方が圧倒的に重要になり、気が付けばパフォーマンス筋肉体質のアウトプット型人間になっていました。全体として、ストライクゾーンが明確に決まり、ひたすら好球を捉えてヒットをねらう感じで、確かに打率は上がりましたが、それに伴うハピネスはさほどありませんでした。
しかも、コンサルティング会社では、給与は時間単価に比例しているので、単価が低いジュニアのコンサルタントができる仕事は徹底的にジュニアにまかせるのが原則です。顧客へのヒアリングも、ごく少数の幹部へのものを除けば、基本的にジュニアの仕事となります。この合理的な仕組みのせいで、私にとってハピネスの源であるヒアリングの機会が漸減していきました。
そして、コンサルタントになって10年くらいたったころ(今から15年ほど前)のある日、ふと気付きます。
・自分にとって本当に面白いのは、自分がアウトプットを出すことより、インプットを入れることの方だ。
・それも自分で直接会って本人から聞く話、特に現場の話が面白い。その時間が貴重でありハッピイ・タイムだ。
・残念なことに、そういう貴重な時間が、役割・パフォーマンス・報酬の階段を上がるにつれて減少している。
そのときはまだ、私がスモールハピネスという考え方・方法と出会う前でした。当時の自分は、今振り返ると他人同然(スモールハピネスを知る前の他人)ですから、その自分に対して少し距離をとって、今の私がコメントするとこんな感じです。
・仕事ではビギナーのときにハピネスが得られることがある(ビギナーズ・ハピネス)。
・ビギナーズ・ハピネスは、ビギナーズ・ラックと同じく、ビギナーのときに限定されがちだ。というのも、その後、仕事に慣れてくるとパフォーマンスが上がり、ビギナーのときと仕事の進め方や内容が変化し、その結果ビギナーズ・ハピネスが消えていく。
・しかし、もし、パフォーマンスに毒される前のビギナーズ・ハピネスが、その人らしいハピネス、あるいは人間らしいハピネスであれば、それはずっと大切にすべきだろう。
・それには、仕事に慣れてパフォーマンスが上がった後も、ビギナーのときと同じような仕事をする時間(私の場合ならヒアリングの時間)を意識的に作るとよいだろう。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授