いまは新しい成長のために、そして特に大手企業では、成熟・衰退期における経営変革のための人事戦略が必要なときだ。
昨今、新聞やビジネス誌などの紙面では「全社員をDX人財へ育成」「ジョブ型人事制度導入」「一芸人材採用」といった、人事に関する積極的な取組みの言葉が躍るのが目を引く。
日立製作所は2021年からジョブ型人事制度の運用を開始し、サッポロホールディングスグループでは2022年3月から全社員4000人を対象としたDX人財化の取り組みが始まるなど、バブル期以降の停滞の30年には見られなかった動きが、今 日系大手企業の人事機能領域で起きつつあるようだ。
だが、こうした記事に共通していえるのは、必要ではあるがはやり言葉に踊らされ、施策の必要性や、目的、その施策から期待される効果がどれだけ自社の企業価値の向上に連動しているのかの検討がおろそかにされているのではないだろうか、という不安だ。
例えば「全社員をDX人財にする」取り組みについて考えてみよう。経営戦略とも連動していそうで、その必要性も当たり前のように見られるが、各社が置かれた状況のなかでの具体的な課題との関連や、将来の姿とどう結び付けられているのだろうか。
経営目線で眺めると、そもそも自社事業の成熟化や衰退の可能性が気になる中で、デジタル時代に新たなプレーヤーが勃興し、よりスピードと変化への対応が必要な競争環境が気になるはずだ。自社の明るい未来を見いだすべく、既存事業あるいは新規事業をけん引するために、これまで自社にはいなかったタイプの人財が必要だから、といったあたりが回答だろう。が、では具体的に必要な行動や、獲得したい知識・スキル・マインド、についての必要性や、その人材が現場のどこでどれくらい活躍していてほしいのか、といったことが、どの程度社内で合意されているのだろうか。
これが合意されているのであれば、その打ち手が、「DXの常識の教育(=知識やスキル付与)」だけであるはずがない。全社員が持つべきものは何か?自社が置かれた状況や今後の将来性に依存しているものはなにか?その仕訳ができている前提であることを願うばかりだ。
筆者の経験からは、こうしたスキルや知識メニューを活用して、全社に展開する中で企業文化や風土改革の取り組みとセットで行われているケースはほとんど見られない。企業風土調査や従業員意識調査はもちろん行われている。しかし、ここの施策が全体としてどうつながり、インパクトを出そうとしているのだろうか。
せっかく養ったスキルや知識を生かそうとしても、「そんなやり方はウチには合わない」「もっと事前に丁寧に相談してくれないと」など、およそデジタル時代の働き方や意思決定とは懸け離れた現実との衝突が目立ってしまい、効果がないだけでなく、意識の高い社員が、世間でのDX事例を学習した後だとむしろ「ウチの会社、大丈夫?」と逆効果になるのではないだろうか。
人材版伊藤レポートでは、「叱責されるのを覚悟であえて言えば、これまでの人事・人材を巡る議論は人事部門の世界に終始し過ぎてきたのではなかったか」と語られている。経営戦略と人事戦略の連携による企業価値向上の観点から人事戦略を語っている。
さらに同レポート2.0では、人的資本経営をおこなうための3つの「視点」と、5つの「共通要素」のポイントが述べられており、その中でも特に、“経営戦略と人材戦略を連動させるための取り組み” が重要だ。
日系大手企業の人事部は、これまで高度成長期(20年どころか、もはや30年前だ)に適した一括採用・終身雇用を前提とした人事諸施策を維持運用することが主な役割となってきた。高度成長期はとうの昔に終わった。デジタル時代の新たなプレーヤーが勃興する中、競争環境は大きく変化しているが、人や組織も含めた、全社の経営は基本的には何も変わっていない。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授