買い物弱者にドローンで空輸 北海道新十津川町の挑戦 民間と連携し買い物代行サービス

注文の品を受託事業者が代理購入し、ドローンで迅速に届ける仕組みで、高齢化などで買い物弱者が増える中、同町は住民サービスの向上を目標に本格運用を目指す。

» 2025年07月14日 15時23分 公開
[産経新聞]
産経新聞

 北海道新十津川(しんとつかわ)町のドローン(小型無人航空機)を活用した買い物代行サービスが注目されている。注文の品を受託事業者が代理購入し、ドローンで迅速に届ける仕組みで、高齢化などで買い物弱者が増える中、同町は住民サービスの向上を目標に本格運用を目指す。

商品は箱詰めにされ、ドローンに搭載される=北海道新十津川町(坂本隆浩撮影)

令和6年に協定

 町の人口は5月末現在6168人。高齢化率は39.77%で、その水準は道内179市町村の中では中位にあたる。町が毎年実施しているまちづくりに関する町民アンケートでは「交通が不便」「買い物が不便」「老後の生活が不安」の回答割合が高く、住民サービス向上が課題となってきた。

本M北海道新十津川町

 道内屈指の米どころでもある同町は農業用ドローンが農家全体の約4割で活用され、ドローンに対する町民理解も進んでいる。町はこうした環境を追い風に、人口減少や買い物弱者、交通弱者対策などを目的に「ドローンを核としたまちづくり」を掲げ、その一つとして買い物代行サービスへの利活用を決めた。

 サービス導入にあたっては、令和6年1月に締結したドローンに関する連携協定が大きな土台になった。連携相手はドローン事業を展開するエアロネクスト(東京都)、国産の産業用ドローンを製造販売するACSL(同)、KDDIスマートドローン(同)、電通北海道(札幌市)の4社で、エアロネクストの子会社でドローン配送サービスを手掛けるネクストデリバリーが事業を受託する形で、今年度から買い物代行サービスの実証を始めている。

配送料は1回600円

 買い物代行は、町民からインターネットや電話などを通じて注文を受けるネクストデリバリーのスタッフが代理で購入し、ドローンに搭載して空輸で届ける。雨天時などはドローンを飛ばせないため軽自動車で陸送。配送料は1回あたり一律600円で、手ごろな価格設定が特長だ。

買い物代行のドローンの着陸を見守る依頼者=北海道新十津川町(坂本隆浩撮影)

 ドローンには最大3.5キロの品物を搭載でき、飛行時間は最大50分。搭載したカメラからの映像やGPS(衛星利用測位システム)情報をもとに、道外で勤務しているエアロネクストの専門パイロットが遠隔操縦している。

 現場を統括するネクストデリバリー自治体事業部の高橋亮太郎さんは「飛行ルートは河川上空など人がいない場所を選ぶ。車道や歩道上空をまたいで移動する場合、人や車がいないかどうかを必ず確認している」と安全に対する配慮を強調する。

 5月下旬に行われた最初の実証配送はトラブルなく完了。ドローンで届いた商品を手にした男性は「外出せずに買い物ができるのは便利」と感想を語った。

 配送エリアは町民の8割をカバーする半径10キロの範囲。町の担当者は「主要なニーズには対応できる」と話す。

課題は冬季対応

 本格運用に向けて課題となるのは冬季対応。気温が低いとバッテリー消費が早くなり、航続距離が短くなるからだ。エアロネクストの担当者は「寒冷地独自のオペレーション手順を設定してリスクを抑えた運航をしている」と話す。軌道に乗せるには月15件の注文が必要だといい、積極的なPRに取り組む方針だ。


 ドローン物流 ドローンを活用し、物流の最終拠点である配送センターなどから消費者に商品を届けるまでの「ラストワンマイル」の配送を行うサービス。ドライバー不足への対応や配達時間の短縮などのメリットのほか、災害時の物資運搬などの活用も期待されている。国内では過疎地域などで日配品や医薬品を届ける実証事業が各地で行われている。

 記者の独り言 取材時は田植え作業がピークで、農家にとっては忙しい合間を縫って昼食を準備するのも大変と聞いた。新十津川町の買い物代行サービスでは農作業の現場にドローンで弁当を届けることもできるといい、細かなニーズに対応できる良さがあると感じた。地域の物流機能を維持できる技術として実用化される日はそう遠くないだろう。(坂本隆浩)

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