野村HDの奥田健太郎CEO、AIやデジタルへの投資拡大「安全性と利便性を両立させる」

生成人工知能(AI)やデジタル分野への投資拡大のほか、さらなる顧客獲得に向けて挑戦を続ける決意を示した。

» 2025年07月18日 15時39分 公開
[産経新聞]
産経新聞

 野村ホールディングス(HD)の奥田健太郎グループCEO(最高経営責任者)は18日までに、産経新聞のインタビューに応じた。生成人工知能(AI)やデジタル分野への投資拡大のほか、さらなる顧客獲得に向けて挑戦を続ける考えを示した。証券口座の乗っ取り問題を巡っては、アプリの安全性向上に取り組むなど、「安心して取引できるシステムを作りたい」と強調した。主なやり取りは次の通り。

インタビューに応じる野村ホールディングスの奥田健太郎グループCEO=東京都千代田区(相川直輝撮影)

――2020年春にCEOに就任してからの5年間を振り返って手応えは

 「就任当初から安定した収益、企業価値の向上を目指してきた。国内証券会社が扱う商品はかつて株や債券、投資信託くらいだったが、未公開株式(プライベート・エクイティ)など、メニューを拡大してきた。今年3月にはROE(自己資本利益率)も10%を達成。30年に向けて8〜10%以上で安定させたい」

――新しい少額投資非課税制度(NISA)の開始から1年半。「金利のある世界」も戻ってきた。個人投資家のニーズの変化にどう対応していくか

 「新NISAで口座数が増え、今年3月末時点で(全金融機関の)買い付け額は約59兆円に拡大した。当社の金融経済教育はこれまで約100万人が受講した。個人の金融リテラシーのさらなる向上に取り組みたい。貯蓄から投資への流れができた一方、金利が上がり資金を借りるハードルは上がった。そのギャップをどう埋めるかというところにビジネスチャンスがある」

国内マーケットを育成

――さらなる個人投資家の獲得に向けて課題は

(相川直輝撮影)

「顧客に寄り添いながら、マーケットを育成していきたい。国内にはまだ成長が見込める分野がたくさんある。たとえば風力発電といったインフラ領域は米国に比べて国内の投資家が少ない。国内市場を成長させることで投資資金がベンチャー企業に届くようになると、いい循環ができる」

――日本経済の動向をどう見ているか

 「日本経済はここ数年で成長の兆しをみせている。トランプ関税や中東危機などで世界経済の不確実性は高まっているが、日本企業の経営は効率的になっており、M&A(企業の合併・買収)も活発だ。AIやデジタル技術で、人口減少という日本の弱点も解消されつつある。地政学的にも、アジアのサプライチェーン(供給網)が日本に移る可能性もある。コーポレートガバナンス(企業統治)が向上する余地もあり、海外投資家から見た日本市場の魅力は増している」

――新型コロナウイルス禍以降、企業のAIやデジタルの活用が加速してきた

 「金融機関にとっても、これからはAIをどれだけ効果的に活用するかが、競争から頭1つ抜け出すカギになる。AIやデジタルの活用によってアプリの使い勝手も良くなり、個人投資家がなかなかアクセスできなかったリサーチリポート(市場動向などの調査・分析結果をまとめた報告書)も、今はデジタルで見られるようになった。仕事の効率化にも貢献しており、これからもAIへの投資を拡大させていく」

乗っ取り被害に最大で原状回復

――証券口座の乗っ取り被害への対応は

(相川直輝撮影)

 「最大で原状回復という方法で検討しており、個別の事情を聴きながら対応する。並行して多要素認証など、アプリの安全性向上に向けて対策を練っている。安全性と利便性を両立させ、安心して取引できるシステムを作りたい」

――今年12月に創業100周年を迎えるが、次の100年に向けた展望は

 「私たちは証券会社として、投資家と市場、投資家と株式などを発行する企業(発行会社)をどうつなぐかというビジネスで成長した。やることのベースは変わらないが、扱う商品の幅をさらに広げていく。壁を乗り越えて挑戦する100年にしたい」

(相川直輝撮影)

おくだ・けんたろう 慶大経卒。1987年野村証券入社。野村ホールディングス米州地域ヘッド(ニューヨーク駐在)などを経て、2019年4月に副社長。20年4月から現職。埼玉県出身。

編集後記

「サッカーからチームプレーの大切さを学んだ」と奥田氏は語る。幼い頃からサッカー一筋で、今も情熱は冷めていない。高校と大学時代の主なポジションはフィールドの中央に位置し、ゲームの先を読みながら攻撃と守備を差配するミッドフィルダー(MF)。どうすれば強くなれるか試行錯誤したサッカーでの経験が、会社経営にも生かされているという。競争の激しい業界だか、「既存の金融イメージを変えたい」と強調する。経営でも“司令塔”として常に先を見据える奥田氏から目が離せない。(久原昂也)

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