まるでSF映画の水素燃料電池船「まほろば」未来技術と大阪の魅力を記者が堪能

SF映画から出てきたようなグレーのメタリックな船に乗り込み、潮風を感じながら大阪湾を進む。船を動かしているのは“未来のエネルギー”水素――。

» 2025年07月18日 16時11分 公開
[産経新聞]
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 SF映画から出てきたようなグレーのメタリックな船に乗り込み、潮風を感じながら大阪湾を進む。船を動かしているのは“未来のエネルギー”水素――。2025年大阪・関西万博の会場がある夢洲(ゆめしま)(大阪市此花区)の船着場から、岩谷産業の水素燃料電池船「まほろば」で約30分間のクルーズを楽しんだ。国内外でまだほとんど実用化されていない水素燃料電池船。最新技術を集めた「動くパビリオン」への乗船体験は、単なる観光にとどまらない、地球の未来を感じさせる特別なものとなった。

水素燃料電池船「まほろば」=大阪市此花区の夢洲(川村寧撮影)

 燃料として使っても二酸化炭素素(CO2)を生まない水素は、とくに輸送、発電などの分野で脱炭素化のカギを握ると期待され、日本や欧米で技術開発や実証実験が進んできた。

 ただ、商用化や普及はこれから。たとえば乗用車は水素燃料電池車が売られているが、日本では販売台数全体の0.1%に満たない水準で推移している。水素燃料電池船も商用運航は珍しく、日本では別の会社の旅客船が昨年、北九州市で就航した程度だ。

 まほろばに乗り込んだのは夕方。夢洲から安治川のユニバーサルシティポート(大阪市此花区)までの片道を体験した。まほろばはここを週3日、1日4往復している。大人が片道3千円、往復5千円。運航は大阪水上バス(同市中央区)に委託されている。

 まほろばは倭建命(やまとたけるのみこと)が故郷をしのんで詠んだ和歌で使われた言葉で、「素晴らしく、住みやすい場所」という意味だという。船体はアルミ合金製の双胴で全長33メートル、幅8メートル。2階建てで定員は150人、時速約20キロ。1階はガラス張りの空間で、2階は海を広く見渡せ開放的だ。

 走り始めても油臭くない。重油ではなく、燃料電池で水素と酸素を使って発電する電気と蓄電池の電気で動いているからだ。

 驚くのはその静かさ。聞こえるのはほぼ波を切る音だけで、「時折、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)からジェットコースターの悲鳴が届く」というガイドの説明も納得だ。すべるように水面を進む感覚が心地よかった。

「まほろば」の船内=大阪市(川村寧撮影)
「まほろば」の船内=大阪市(川村寧撮影)

 刻々と変わる大阪の街の表情も楽しめる。右に見えてくるのは夢洲と咲洲(さきしま)に挟まれた「大関門」と呼ばれる場所。「秋から冬にかけては、西に見る大関門に夕日がちょうど沈む」という絶景スポットだ。10月の万博閉幕が近づくと、その荘厳な光景を船上からみることができるかもしれない。

 さらに進むと、咲洲と対岸の大阪市港区を結ぶ「港大橋」が登場。橋げたが三角形を基本単位とするトラス橋として橋脚間の距離が510メートルと日本最長だ。ガイドによると、夜は近くのクレーンなどに明かりがともり「幻想的でロマンチックな大阪港」を演出する。

 そして見えてくるのが「天保山大観覧車」。直径100メートルという大きさは圧巻で赤くライトアップされていた。翌日の天気予報が晴れなら赤、曇りなら緑、雨なら青にともる。遊び心と実用性を兼ねたアイデアに感心した。その後、ユニバーサルシティポートに到着。濃密な30分だった。

「まほろば」船上の大阪公立大・橋爪紳也特別教授=大阪市(川村寧撮影)

 同乗した大阪公立大学の橋爪紳也特別教授は「1970年大阪万博では旧国鉄が新幹線『ひかり』を『もう1つのパビリオン』と宣伝していた。まほろばも、水素の技術がどういうものかを目の当たりにできるパビリオンそのものだ」と指摘。「地球温暖化でエネルギーのあり方が問われる中、まほろばの新しい試みは意義がある」とした。

 未来への希望と大阪の魅力を見つけることができるまほろば。万博後どう使われるか未定だが、せっかく大阪で“生まれた”のだから、関西の新たなシンボルとして活躍することを願ってやまない。(山口暢彦)

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