1910年の創業以来、顧客のニーズに応える「質の量産」を追求し続けてきたプロテリアル(旧日立金属)。データが散在し、活用できないという課題認識はあったものの、社内にデジタル人材が不足し、DX専門の部署も編成できていなかった。それでも3年前にトップの大号令で始めたデータレイクを通して、経営戦略本部に設置されたデータガバナンスグループは、草の根でじわじわとデータ活用の企業文化を作り上げつつある。
2023年1月、「日立金属株式会社」から社名を変更し、新たなスタートをきったプロテリアル。高品質な製品・サービスの提供を通じ、持続可能な社会の実現に貢献すべく、さまざまな挑戦を続けている素材メーカーだ。社会において果たすべき使命、普遍的な役割として「質の量産」を掲げ、高機能材料分野においては特長のある製品を有し、産業インフラ、自動車、エレクトロニクス関連のマーケットで実に幅広い事業を展開、さまざまな社会のニーズに応えることができる事業構造が成長の原動力につながっている。
データが「第4の経営資源」と位置づけられる昨今の企業経営環境を踏まえて、社内に散在する財務、人事、調達、生産、品質など、幅広い領域の生データを一元的に管理する「データレイク」を構築。さらにコード統治による標準化を進め、さまざまな事業や組織の状況を横串で可視化できる環境を作り上げようとしている。
この取り組みについて、経営戦略本部 データガバナンスグループの大山賢治グループ長と同グループ兼務の情報システム本部 運用開発部 事業系第一システム開発グループの安田和永氏にITmediaエグゼクティブ プロデューサーの浅井英二が話を聞いた。
プロテリアルのデータガバナンスグループは、社名が変更される以前の2022年7月に立ち上がった組織だ。「散在するデータの活用に課題がありましたが、人材不足からDX専門の部署もなく、まずはデータレイク向けの専任組織を立ち上げるところからスタートしています」と大山氏は振り返る。「DXという言葉も流行っていましたが、将来を見据えればガバナンスの重要性が増してくるはずです。より普遍的な部署名にということで“データガバナンスグループ”が誕生しました」(大山氏)
きっかけは、日立金属の最後のCEOを務めた西山光秋氏によるデータレイク構築の大号令だった。損益情報を詳しく見たいというニーズが背景にあったわけだが、さまざまな事業から成り立つ同社にとって、損益情報を収集して横串で見られるようにすることは簡単なことではない。
例えば、出荷明細ごとの損益情報を見える化するためには、原価の情報が事業横断で正しいことが必要になる。しかし、同社は合併や買収(M&A)を重ねながら成長してきたため、ある工場は標準原価計算だが、別の工場は直接原価計算でといったように事業ごとにばらばらだった。財務本部、情報システム本部、経営戦略本部、そして事業部を巻き込んだデータレイク開発のプロジェクトが進められ、その本稼働に合わせて経営戦略本部にデータガバナンスグループが新設された。
現在のデータガバナンスグループの取り組みは、大きく3つに分類される。(A)経営管理向けデータレイク開発と全社展開、(B)全従業員向け情報探索ツールの開発と全社展開、そして(C)グループ経営のためのコードガバナンスだ。当初は(A)経営管理向けの仕組みとして始めた取り組みだが、大山氏はより多くの社員が利用する(B)情報探索ツールにも着手することにした。
「経営に資する高度な収益管理を実現し、成功体験を得るためには5年、10年かかってしまいます。それだけではデータガバナンスを根付かせていくことはできません」(大山氏)
折しも親会社が日米ファンド連合へと変わり、日立グループで利用していたシステムも刷新が求められていた。そこで「連結経営に資する収益管理を、できる限り細かい粒度で見ることができる会社を目指す」という当初の取組みは継続しつつ、よりデータ管理が容易で多くの社員が利用する取引先企業情報のシステム開発をデータレイク上でトライする。
「これがうまくいきました。もともとは帝国データバンクから購入した与信情報を参照するための単純な仕組みでしたが、データレイクのデータ構造を工夫したことで、当社の取引先マスタの全てのデータと紐づけて参照できるようになりました」(大山氏)。
帝国データバンクの評点データに加え、自社の取引先マスタの情報や、競合他社の特許関連情報など、より多くの企業情報を統合し、簡単に参照できる仕組みを実現する。これにより、例えば営業担当者が取引先開始申請するときに、新規の取引先の情報を確認し、PDFで出力して、関係部門と簡単に共有できるようになった。国内グループ共通の仕組みで、複数部門の業務を効率化することができた。
その後、どの部門でも行っていた経費の予実管理でも大きな成果を上げる。以前は必要なデータをシステムから抽出し、表計算ソフトとメールで行っていたが、データレイクに集約し、可視化して、承認する仕組みを実装したことで、全てのオフライン作業が無くなった。承認を行う部門長を始め、多くの利用者から高く評価されている。
経営管理向けで最初に大きな成果を上げたのは「グループ人員統計」だ。同じ人事システムを利用していたものの拠点ごとに違う環境で構築してきたことから、それぞれの人員データを統合することは容易ではなかったが、ここでは情報システム部門との兼務でデータガバナンスグループに参画した安田氏の提案がうまくいく。
大山氏は「人事システムからデータを1つひとつ連携しなくても、PCのユーザー管理の仕組みであれば人事システムのデータを格納しているはずなので、このデータを使えば連携が楽になるのではないかという提案をしてくれた。いつ、だれが、どのIDでPCを使えるかという情報を月末にスナップショットとして保存することで使いやすい人事系データの蓄積が一気に進みました」と話す。
安田氏は、「当時、社内のDXを推進するための情報システムの企画部門に所属し、主にデータ利活用のためのツールの企画・導入を担当していました。従来の可視化基盤ではせっかくのデータも個別に最適化されており、発展性に限界を感じていたため、新たなデータレイクには新規性がありました」と振り返る。
横串を通しやすい全社のデータ領域を見つけるスキルがデータガバナンスグループに蓄積され、データレイクの開発効率は格段に上がった。一方で、全社のデータが一元的に集まると、システムごとにコード体系の違いが浮き彫りになる。
大山氏は、「あるシステムでは国コードがアルファベットなのに、別のシステムでは数字のコードで管理されていました。そこでコード体系がどうなっているかを把握するためにマスタデータ管理が必要になりました。例えば、取引先の親子関係を表現したマスタや連結会社マスタを整理しました。コードを集約し、全てのコードを紐づけることで、コードに変化があれば週1回自動更新される仕組みを構築しています」と話す。
安田氏は「情報の粒度や収集タイミングもバラバラでコードも統一されていないような状況では効果的なデータ利活用は難しいため、マスタの整理と共有に伴走しました。」と話す。
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明治学院大学 経済学部准教授