社会人として大事なのは「純粋さ」と「ポジティブなモチベーション」――トヨタファイナンス 梅原明氏「等身大のCIO」ガートナー 浅田徹の企業訪問記(1/2 ページ)

クルマを起点に、顧客の生活ニーズやライフスタイルに寄り添う商品・サービスを展開するトヨタファイナンス。デジタルの活用により、顧客のニーズに向き合い、高い付加価値を創造し、提供し続ける企業への転換を目指す同社の取り組みとは。

» 2025年07月29日 07時08分 公開

 1988年11月に、トヨタ自動車から分離・独立し、「中長期融資業務」「集金代行業務」「設備等リース業務」「保険代理店業務」を継承して設立されたトヨタファイナンス。100年に一度の変革期を迎えている自動車業界において、モビリティサービスという新たな領域で、販売金融、クレジットカードの両事業で培ったノウハウを生かし、安心、安全な金融ビジネスモデルの創造にスピード感を持って挑戦している。

 同社では、2021年〜2025年を事業構造・企業体質を根本的に変えるラストチャンスと位置づけ、「VISION2025」として「モビリティ金融サービス会社への変革」を掲げて戦略を展開。デジタル活用による価値創造はもちろん、人を大切にする経営方針と人材育成にも取り組んでいる。こうした取り組みについて、トヨタファイナンス フェロー IT本部長の梅原明氏に、ガートナージャパン エグゼクティブ プログラム リージョナルバイスプレジデントの浅田徹氏が話を聞いた。

トヨタファイナンス フェロー IT本部長 梅原明氏(左)ガートナージャパン エグゼクティブ プログラム リージョナルバイスプレジデント 浅田徹氏

リスペクトできる上司がモチベーションの源泉

――まずは、これまでのキャリアについて聞かせてください。

 1989年に大学を卒業し、ノンバンク系の企業に就職して社会人になりました。28歳のときにトヨタファイナンスに転職しています。トヨタファイナンスでは、現場を2年経験したのちに、主に本社のオペレーション部門や管理部門の業務を約15年間担当していました。その後、部長職としてIT本部に異動し、現在に至ります。

――これまでの人生で、もっとも記憶に残っているできごと、現在の仕事に影響している人との出会いはありましたか。

 社会人としてモチベーションを保ててきた要因の1つとして、高校時代の部活での挫折があります。当時、バレーボール部員だったのですが、3年生が引退し、2年生が主力になったときに同学年で唯一ベンチに入れませんでした。スタンドから応援していたのですが、隣に座っていた1年生の後輩が、ベンチに入っていない私を1年生だと勘違いして、ため口で話をされたのが屈辱でした。部活をやめようと考えたこともありましたが、部活をやめなかったのは同学年のチームメイトの存在でした。最終的にはレギュラーになれたので、続けていてよかったと感じています。

 また社会人になってからはリスペクトできる上司が常にいて、その上司に認められたいという気持ちがモチベーションになっていました。そのため、リスペクトしていた上司がいなくなったときにモチベーションが一気に下がったこともありました。自分がマネジャーになったときには、「部下の育成とは自分が働いている背中を見せるものだ」と考えていて、やるべきことをがむしゃらに進めていました。

 困ったときには当然助けますが、能動的に部下を育成したり、モチベーションを上げようとしたりすることはありませんでした。社会人は給与をもらっている以上、プロなのでモチベーションは自分で上げるものだと考えていたからです。当初は部下からの反発もありましたが、別の部署に異動するときの送別会で、部下から「梅原さんがいたから頑張れました」と言われて、マネジャーの言動が部下に与える影響力の大きさを身にしみて感じました。この言葉が、自分の仕事をやり切った達成感よりもうれしく、その後は部下の育成や教育に注力するようになりました。いま思えば、リスペクトしていた上司の影響を受けていたのかもしれません。

――梅原さんは部下思いで、面倒見が良い人だと思っていたので少し驚きました。

 当時の部下に人材育成の話をすると、「どうしたんですか。人に興味はなかったですよね」と驚かれます(笑)。上司の言葉や部下のひと言で、人に与える影響が大きいことを学び、責任も感じるようになりました。36〜37歳のころから人材育成の大切さを知りましたが、達成感の対象が自分の仕事の成果から人材育成に変わっただけだと思っています。

人は変わらないのではなく、常に変わらないという選択をしているだけ

――現在、取り組んでいる人材育成について聞かせてください。

 小集団のディスカッションやワークショップなどの取り組みを、約6年前より進めています。当初は部下に目を向けるようにしていましたが、やり方自体は変えていませんでした。相変わらず自分が手本をみせたり、ビジネススキルを説明したり、結局は見て盗みなさいというやり方でした。現在は型作りのフェーズで、「how to(〜のやり方)」の標準化を進めています。

 自分の成長が何によりもたらされたかを考えてみると、モチベーションであり、価値観でした。これにより行動が変わり、知見やスキルが身につきました。そこで価値観のディスカッションやワークショップを始めました。それを理解できれば人は成長し続けることができます。小手先のテクニックを使っても成長は持続しません。とはいえ、人の価値観を変えるのは容易ではありません。

――シニア世代にはシニア世代の、若者世代には若者世代の難しさがある気がします。

 動画共有サイトで、アドラー心理学の動画を見たときに「人は変わらないのではなく、常に変わらないという選択をしているだけ」という言葉がありました。これを聞いて本当にそのとおりだと感じました。変わりやすさは人それぞれに違いますが、変わる可能性は誰もが秘めています。ただし周りがどれだけ変えようと頑張っても、最後の選択は本人しだいです。

――アドラー心理学をベースにした書籍『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え(岸見一郎/古賀史健:ダイヤモンド社)』の中にも「馬を水飲み場に連れていくことはできるが、水を飲むかどうかは馬しだい」とあります。

 以前、浅田さんから「自分の課題と相手の課題を区分けする」という話を聞いたのですが、当時は意味が分かりませんでした。いま「馬を水飲み場に連れていくことはできるが、水を飲むかどうかは馬しだい」という話を聞いて、自分の課題は「馬を水飲み場まで連れていくこと」で「水を飲むかどうか」は部下の課題だと気づきすっきりしました。

 部下を育てるときに、いくら言っても響かないとフラストレーションがたまります。しかし、自分は自分のできる範囲で部下に対する影響力を与え続ければよく、そこから先は部下の課題と割り切ることができました。自分自身もまだ変わり続けている最中なので、自分でも分かっていないこと、気づいていないことは多いと思いますが。

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