BizOpsに求められるスキルは多岐にわたりますが、マネーフォワードの横断BizOps本部 BizOps部部長 荒井さんが強調するのは、「粘り強く考え抜く姿勢」と「変化に対する柔軟性」です。
BizOpsの役割は、正解のない課題に取り組むことで、現場から上がる要望のなかには、相反するニーズや、組織構造上の制約が絡むものもあります。“誰かの正しさ”と“組織全体の最適”の間で、葛藤しながらも前に進める胆力が求められるのです。
例えば、ある部署では「スピード最優先でプロセスを簡略化してほしい」と言われ、別の部署では「法務チェックを強化してほしい」と求められる。そんな矛盾する声を、ただ調整するのではなく、「何のために、どこを目指すのか」という目的に立ち返って再設計する――そうした“理想を描き直す力”が、BizOpsには求められます。
もうひとつの特徴は、「事業への献身性」です。
個人の成果を追うのではなく、事業成長を最大化することを優先します。Slackでのノウハウ共有、ドキュメントの標準化、引き継ぎのしやすさ――あらゆる行動が、「後に続く誰かのため」に設計されています。
プロジェクトを一過性の成功に終わらせず、再現可能な“仕組み”として組織に残していく意識が重要です。
例えば、改善フローや背景の意思決定プロセスまでドキュメントに残し、似たプロジェクトが発生したときに流用できる状態を整える。こうした積み重ねが、新たな“人依存”を生まない文化をつくっています。
BizOpsの仕事は、課題を解決して終わりではありません。
その成果が再現可能であり、誰が使っても同じように価値を生み出せる状態になって初めて、「仕組みになった」と言えるのです。
マネーフォワードのBizOpsは、複数の事業と業務プロセスが並走する中で、全社を貫く“共通の仕組み”を設計し、組織を動かす役割を担っています。
その取り組みは、定量的な成果にもつながっています。
例えば請求業務においては、請求書発行数が1.5倍以上に増えても対応する人員を削減し、送付までのリードタイムは2営業日短縮、入金消込にかかる時間は半減しました。
かつては、複数の事業部で異なる形式の請求書が存在し、入金の照合作業も担当者の経験と属人的な判断に頼っていました。
BizOpsはまず、その構造を可視化し、請求フォーマットや工程を標準化。システム側にロジックを組み込むことで、作業量を減らすだけでなく「属人性の排除」と「正確性の担保」を両立させました。
このように、BizOpsが取り組んでいるのは単なる効率化ではありません。
既存のやり方を前提に「良くする」のではなく、「どうあるべきか」から設計し直す――その姿勢こそが、再現性ある業務改革を可能にしているのです。
現在は、Generative AIの活用や全社レベルでのシステム統合にも挑戦中です。
例えば、ナレッジ共有の自動化やFAQ対応の最適化など、“業務プロセスの仕組み化”から“判断・学習の仕組み化”へと進化の幅を広げています。
BizOpsの仕事は、「誰かが気をつける」運用ではなく、「誰でも迷わず正しく動ける」構造をつくること。
そのために、ツールを整えるだけでなく、業務そのものの“前提”を見直す姿勢が求められます。
仕組みの中には、組織の思想があらわれます。
マネーフォワードのBizOpsが設計しているのは、業務そのもの以上に、「どう動きたい組織であるか」という未来像なのかもしれません。
マネーフォワードのBizOpsは、仕組みをつくることで組織を支えています。
しかし、その背景には必ず「現場と向き合い、信頼を築く姿勢」があります。
構造を変えることは、対話の積み重ねです。
仕組みを整えることは、関係性を編み直すことでもあります。
だからこそ、彼らの仕事は裏方でありながら、組織の在り方そのものに影響を与えているのです。
次回は、HR領域のSaaSを展開するスタートアップ・jinjer株式会社を取材します。
戦略があっても、現場に届かなければ意味がないーそんな気づきから始まった挑戦と、信頼を起点にした組織変革の物語をお届けします。
1990年生まれ。神奈川県在住。マニュアル制作会社での制作ディレクションを経て、2017年に株式会社ビズリーチ入社。営業基盤の再構築やSalesforce運用を担当した後、株式会社スマートドライブにて、上場前後の成長フェーズにおける事業部横断の業務設計やSaaS導入・定着支援を推進。2022年よりフリーランスとして独立し、現在は一般社団法人BizOps協会の理事を務める。BizOpsの専門性確立と普及に取り組むとともに、実務者として複数企業の業務構築・運用改善に従事。ライターとしても活動しており、ビジネス、組織論、ジェンダーといったテーマを中心に、構造的な課題への眼差しと現場感を交えた視点で発信している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授