エンジニアリングプラスチックのパイオニアで、自動車やハイテク分野に高機能素材を提供するポリプラスチックスでは、DXプロジェクトの推進により、データ連携のリアルタイム化と業務効率化を実現。今後は顧客への情報提供やデータアナリティクスによる新たな価値創出を目指している。
エンジニアリングプラスチックの黎明期である1962年に創業したポリプラスチックスは、日本初のエンジニアリングプラスチック専業メーカーである。同社は、自動車業界やハイテク業界、スマートフォンなど、身のまわりにある高度なプラスチック素材を開発、製造することで、人々の暮らしを支えている。主な用途は、低摩擦・摩耗、低騒音を生かした電子・電機用途のギアや、滑りやすさを生かした衣料用途のファスナー、耐油性を生かした燃料系部品など。顧客ニーズに応える高品質な製品を開発し、提供し続ける同社だが、喫緊の課題はデータ活用による業務改善でだった。
そこで同社では、2020年12月より全社のDXを積極的に推進することを目的とした「BizProDX」プロジェクトをスタート。サイロ化した情報をAPI基盤で統合し、データ連携のリアルタイム化と業務効率化を実現した。またCRMクラウドサービスの導入により、顧客情報の一元管理も推進。今後はデータアナリティクスによる新たな価値創出を目指し、データ活用文化の醸成と業務システムのマイクロサービス化を目指している。同社のDX推進について、ICT統括部 部長の押手孝太氏、およびICT統括部 データ責任者の平田邦紘氏にITmediaエグゼクティブ プロデューサーの浅井英二が話を聞いた。
ポリプラスチックスは、ポリプロピレン、ポリエチレンのような汎用的なプラスチックではなく、金属の置き換え需要を満たす耐久性の高い素材であるエンジニアリングプラスチックを開発、製造する素材メーカーである。エンジニアリングプラスチックは、硬くて熱や薬品に強い等の特性があるが、加工が難しい素材であることが特徴の1つ。性能を発揮させるためには、専門的な加工技術が必要になる。
顧客に提供する製品は100%の性能を発揮してもらおうと、1964年の創業時から60年以上、どのようにエンジニアリングプラスチックを加工すれば求められた性能を発揮できるかといった観点でサポートを提供し、性能が足りない場合には新たな素材を開発する取り組みを進めてきた。いいものを作れば売れるプロダクトアウトではなく、顧客ごとの要望に応えるカスタマーインのビジネスを創業当時から展開してきたという。
企業理念の1つである「お客様との価値創造活動」に基づき、常に顧客に最も近いところに立ち、求められるニーズを顧客の心で捉え、最高の技術力とサービスで期待以上の価値を提供し続けることを目指しているが、2020年ごろまでのICT活用に関しては、レガシーな基幹システムを使いこなすことがデジタル活用だというレトロな感覚の会社であり、DX推進が喫緊の課題となっていた。
「2020年ごろ、当時の社長の“ビジネスは順調だが、今後はデジタルを活用しなければ生き残れない”という思いから本気のDX推進がスタートしています。当初のDX推進は、経済産業省が公開している『DX推進の成熟度』のレベル1(一部で散発的実施)程度でしたが、約4年の取り組みでレベル3(全社戦略に基づく部分横断的推進)程度まで進んでいます。今後、データ活用の文化の醸成や真のビジネスとデジタルの融合による、さらなる高みを目指していきます」(押手氏)。
2020年にDX推進がスタートした背景には、大きく2つのポイントがあった。1つは、業績は右肩上がりで悪くはなかったものの、化学素材業界は再編が進んでおり、今のビジネスのやり方では競争優位性を保てないこと。もう1つは、新型コロナウイルスのまん延により経済は停滞したものの、半導体の需要が急激に拡大し、部品として使われているエンジニアリングプラスチックの需要増に応えられなくなったことである。
押手氏は、「ポリプラスチックスでは、お客様目線のビジネスが社員1人ひとりに浸透していましたが、営業も、物流も、研究所もそれぞれに個々のお客様に対応していたため、情報が共有できていないことが課題でした。またアナログな環境で情報を収集し、判断していたので、変化のスピードに追いつけませんでした。そこでデジタル技術やデータをフルに活用し、お客様接点を高度化して、競争優位性を高めることが必要でした」と当時を振り返る。
「DX推進プロジェクトの発足時には、まず役員に話をし、各業務領域の部長クラスと約2カ月、ポリプラスチックスが目指すありたい姿を議論して構想を練りました。各部門の課題や今後5年、10年何をしていきたいかを共有し、デジタル技術やデータを活用してどのような世界を目指すかを議論し、1枚の絵に落とし込みました。DX推進ではソリューションに注目しがちですが、ビジネスを変革することが目的であることを常に意識しています」(押手氏)。
プロジェクトには、最大で100人以上の社員が参画しているが、そのほとんどが事業部門の担当者で構成されている。ICT統括部は、DX推進の構想に基づいて、各事業部門がやりたいことを集約し、その実現をサポートする裏方に徹している。実際のDX推進では、まずアナログでサイロ化した業務システムを1つのプラットフォームに統合し、ビジネスプロセスの上流から下流までデータがスムーズに流れる仕組みを構築した。
押手氏は、「2020年より実施したDX推進は、ビジネスプロセスをデジタル化することで、ビジネスを可視化することが最大の目的でした。まずは2022年にデジタルデータを蓄積する仕組みを構築し、2023年にデータを活用して価値を創出したり、ビジネスを改善したりするための意思決定支援の仕組みを構築しています。データ活用やDX推進では、仕組みはもちろん、意思決定の文化や仕事のスタンスなども重要です」と話している。
2020年12月より、全社DXを積極的に推進することを目的にスタートしたBizProDXプロジェクトでは、お客様目線のビジネスが浸透していたことからCRMクラウドサービスをベースに進められた。営業情報だけでなく、材料管理などの情報も盛り込み、製品企画からレシピを作成し、ものづくりの条件を決定して、製造情報を生産部門にわたすまでの一連の「エンジニアリングチェーン」全体の管理を実現している。
DX推進の取り組みに合わせてICT統括部に異動してきた平田氏は、「それまで研究部門でマテリアルインフォマティクスの立ち上げチームのリーダーだったので、事業の中でどのようにAIやデータを活用していくかといったイメージはありました。エンジニアリングチェーンは、データを活用することが目的ではなく、本質的な業務改善につなげることが最大の目的であると考えてプロジェクトをスタートしています」と話す。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授