エンジニアリングチェーンが完成すると、例えば営業担当者が顧客から聞いた情報をインプットすることで、この材料で、この金額で、この拠点から毎月何トン提供できますという逆算された情報がアウトプットされ、顧客の問い合わせに瞬時に答えることができる。平田氏は、「データが蓄積されていけば、AIも活用し、これまでは1〜2年かかっていたものづくりのライフサイクルを1〜2カ月で実現できる世界を目指しています」と話す。
ポリプラスチックスでは、デジタル部門が推進すべき領域として、「デジタルアーキテクチャなどの仕組み」「デジタルリテラシーやカルチャーなどの協調する文化」「デジタルガバナンスの管理と運用」の3つを挙げ、そのバランスを重視しているという。データプロジェクトも同様で、事業戦略や経営戦略に基づいてデータ活用の戦略を立案し、実践するが、仕組み、協調する文化、管理と運用の3つの領域でさまざまな取り組みを進めている。
データ活用の推進では、まず導入フェーズでデータ活用の文化を0から1に醸成し、次に文化を拡張するフェーズに取り組んでいる。例えば、データ活用の文化に基づき、各部門と協調するタスクフォースを立ち上げ、それを実践するデータ分析基盤やデータガバナンスなどが確立されている。これまでのデータ活用は、部門内に閉じた点の取り組みだったが、現在は部門横断的な活用のフェーズで点を線から面にする取り組みを進めている。
また文化の醸成や人材育成では、DX推進やデータ活用のプロジェクトはビジネス成果の追及にこだわり、ビジネス人材やデジタル人材、外部協力の人材も含めた混成チームを構成し、データアナリストやビジネスアナリスト、変革リーダーなどの役割に必要なスキルセットを定義した座学だけでなく、ワークショップも含めた高度デジタルリテラシー教育でICT部門外の「ビジネス・テクノロジスト」を育成する。
押手氏は、「ビジネス部門だからビジネス要件定義をする、デジタル部門だからシステム要件定義や開発をする、リーダーだからプロジェクト管理をするだけでなく、それぞれの個性に合わせた役割を補完しながらプロジェクトの達成を目指しています。場合によっては、デジタル部門がビジネス要件を定義したり、外部コンサルタントが業務的な役割を担ったりすることで、いろいろな経験を積んでもらうようにしています」と話している。
2030年、2050年の製造業のイメージは、SF映画などでも語られているように、グローバルの拠点や業務のどこで生産が滞っていて、延滞の課題は何で、どのように対処すればよいのかといった情報の全てをオペレータが1つのモニタで一目瞭然になる世界である。そのために各部門の担当者のリテラシー教育を実施し、ビジネス・テクノロジストを育成することが、DXプロジェクトの先にあるICT部門の役割だ。
また、エンタープライズ・アーキテクチャ(EA)に基づく「デジタルアーキテクチャ」の思想を維持していくのもICT部門の重要な役割となる。例えば、データはどのようにつながっているかとか、マスタデータは全社共通であるべきとか、ERPはグローバルで1つでなければならないのかなど、ついつい皆が自然に考えてしまう思想に流されなず、時代に合った設計思想が必要になる。さらに、システムは疎結合でコンポーザブルでなければ、今後の変化に迅速かつ柔軟に対応できない。
押手氏は、「これからの時代を考えたときに、一つの大きな仕組みを構築するのではなく、コンポーザブルであるべきで、業務領域やビジネス商習慣に合わせ適材適所に採用した仕組み同士をAPIで統合します。AIを組み込む場合も、AIエージェントを1つのプラットフォーム上に統合するのではなく、それぞれの業務領域の仕組みにAIエージェントがいる方が自然で、そのAIエージェント同士が対話する仕組みが必要だと考えます。」と話す。
今後のDXプロジェクトのあるべき姿について押手氏は、「“DX”という言葉を使わなくなることです」と話す。これまでのようにDX担当者がけん引してDXを推進するのではなく、ビジネスの現場でデジタルによる変革が自然発生し、それが繰り返される状態が今後のDXの目指す姿だと考える。そのためにも、仕組み、協調する文化、管理と運用の3つの領域のバランスは重要だ。
Windows 3.0が米国で発表された1990年、大手書店系出版社を経てソフトバンクに入社、「PCWEEK日本版」の創刊に携わり、1996年に同誌編集長に就任する。2000年からはグループのオンラインメディア企業であるソフトバンク・ジーディネット(現在のアイティメディア)に移り、エンタープライズ分野の編集長を務める。2007年には経営層向けの情報共有コミュニティーとして「ITmedia エグゼクティブ」を立ち上げ、編集長に就く。現在はITmedia エグゼクティブのプロデューサーを務める。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授