さまざまな業界でいま、人手不足が深刻化している。力仕事や立ち仕事の現場ではロボットなどの最新技術を活かし、仕事の質を上げることが日常になってきている。AI(人工知能)の技術が日進月歩の進化を遂げる中、あえてAIに頼りきらず、従来の延長線上で生まれた技術をフル活用して、業務の効率アップに奮闘している企業も多い。現場を訪ねた。
さまざまな業界でいま、人手不足が深刻化している。力仕事や立ち仕事の現場ではロボットなどの最新技術を活かし、仕事の質を上げることが日常になってきている。AI(人工知能)の技術が日進月歩の進化を遂げる中、あえてAIに頼りきらず、従来の延長線上で生まれた技術をフル活用して、業務の効率アップに奮闘している企業も多い。現場を訪ねた。
保安業界は担い手の少なさに苦しんでいる。厚生労働省によると、警備員といった保安職業従事者の2025年の新規求人倍率は9.19倍で、平均値(2.01倍)を大きく上回った。企業側は、最新技術を駆使することでレベルの高い警備体制を維持しようとしている。
昨年、大にぎわいだった大阪・関西万博の「日本館」では、警備員が「ヘッドマウントディスプレイ(HMD)」を装着していた。従来の無線機などでは周りの騒音に会話がかき消され、指示が聞こえずトラブルになることもあった。解消策としてテイケイ(東京都新宿区)がHMDを独自に開発した。
レンズのような形状のディスプレーを片方の目に装着する。レンズ部分の表示はフルカラーで、指令センターからの情報が文字、写真、映像などで送られてくる。もう一方の視野は確保されており、接客や警備をしながら指示を確認できる。ディスプレーの映像は警備員のボディーカメラで撮ったものがリアルタイムで流れる。左右の眼で別の角度を確認できる。録画も可能だ。万一の場合には、映像が証拠になりえる。
テイケイの大部公彦広報次長は「万博という近未来的なイベントで、お披露目もかねて初めて導入した」と説明した。
テイケイは、SEQSENSE(東京都中央区)と共創し、自律移動型警備ロボット「SQ-2」を現場で導入。人とロボットによる新たな警備体制の構築を進めている。4月からは経済産業省総合庁舎別館で本格的に稼働し始めた。
「SQ-2」は建物の3次元情報をインプット(マッピング)すると、3Dライダーで人間や障害物を感知しながら、安全に走行する。4方向に付けられたカメラから360°監視でき、音声案内や施設内の防災センターと通話しながら来館者に対応する。エレベーターにも対応しており、ロボットだけで他の階に移動ができる。現場の警備員からは導入後、「負担が減った」「映像の確認が楽になった」と喜ぶ声が上がったという。
製造業では産業用ロボットが導入され、省人化が進む。設備工事業のナイガイ(東京都墨田区)は、断熱材を加工する野田工場(千葉県野田市)でロボットを採用した。
工場では断熱材を丸めやすくするために短冊状に切断し、並べ直す加工を施す。断熱材を切断する機械と、短冊状になった断熱材を再び1枚に並べ直す機械の間で、これまでは人が大量の断熱材を運んでいた。ロボット導入で、作業時間は従来の3分の1に短縮された。
浅井康雄社長は2023年ごろ、作業全体の工程に配慮し、ほぼオーダーメード式のロボットシステムを採り入れた。野田工場の吉田寛工場長は「作業が楽になり、大幅に効率が上がった」と語る。
足利技研(栃木県足利市)は、現場のニーズに合わせ、産業用ロボットをカスタマイズする事業を手がける。顧客の各企業にヒアリングしながら、どんなロボットが最適かを検討している。
大野和俊社長はAI技術が進化するなか、「今後も事業を続けるには変化への対応が大事だ。常に新しい技術の情報を得て、どう活用できるかを考え続けたい。困っていることを解決できる喜びを大切にしたい」と話す。
現在、AIを使わないロボットが活躍する現場をどうみるか。テクノロジーを起点に産業の動向を研究するSOMPOインスティチュート・プラス(東京都新宿区)の秦野貫・上級研究員は「工場などでのAI導入には、まだまだ課題が多い」と分析する。
現在稼働する産業用ロボットはあらかじめ動きを設定しており、高速かつ高精度で同じ作業の繰り返しを得意とする。環境変化に対応し柔軟な動作が可能なフィジカルAI(AIが制御するロボット)について秦野氏は、まだ速度や精度の面で実用レベルには達していないと指摘する。
フィジカルAIの導入には、産業用ロボットの制御にAIを取り入れることで柔軟性を身に付けることも考えられるが、「AIの学習に必要な動作のデータがまだ少なく、性能を上げにくい。AIの判断プロセスが不透明なため、万一の事故が起きた際に責任の所在を明らかにできない課題も残っている」と秦野氏。現在のフィジカルAIでは、人間に混じって働くのは難しいとの見方を示す。
実際の現場でフィジカルAIが働くようになるにはまだ時間がかかりそうだ。実現までは、現状の技術をフル活用して対応することが肝要だと考えられる。(長谷川あかり)
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明治学院大学 経済学部准教授