がんと並び死亡の主原因となる血管病について知っておきたい医療のこと(2/2 ページ)

» 2016年06月22日 08時00分 公開
[阿保義久ITmedia]
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 大動脈に生じる動脈硬化性疾患は大動脈瘤が代表的で、心臓から直接分枝する胸部大動脈、腎臓の動脈周囲の腹部大動脈などが好発部位です。これは膨らんだ動脈が破裂することで致死的な状況に陥りますから、動脈瘤が破裂のリスクがある大きさにならないうちに治療をすることが極めて大切です。

 下肢に生じるのはいわゆる閉塞性動脈硬化症と呼ばれる病態です。最近は末梢動脈疾患(PAD)という呼び名もつけられていますが、末梢動脈のトラブルはほとんどが下肢(脚や足)に生じます。閉塞性動脈硬化症は、足の冷感や歩行時の脚の痛みなど前駆症状が伴うことが多く、他の多くの血管病のように突然致死的な症状を来すことは比較的少ないのですが、これを契機に心臓や脳の血管障害が発見されることが多いので軽視できません。

 すなわち、心臓や脳に生じる血管病は予兆なく突然発症して重症化することが多いのですが、その発症の前の段階で閉塞性動脈硬化症が潜在していることがしばしばあります。すなわち、脳や心臓に重大なイベントが近い将来発生することを予告する症状として、脚の冷えや痛みを捉えることが重要です。すなわち脚の症状だからと軽視せず、心臓や脳の血管病を発見する契機になることを理解したうえで対処すべきです。

 さて、血管病が命取りになる発症メカニズムで無視できないのは血栓症です。血栓症とは、本来は血管内で固まることなくサラサラと赤ワインのように流れ続けなければいけない血液が突然固まって血栓となり、血管を塞いでしまう病態です。そして、血栓症は動脈硬化を契機に発症するので、動脈硬化と血栓症は一連の症状としてマークしなければいけません。

 動脈硬化だけでは血管が急に閉塞することはありませんが、動脈硬化をベースに何らかの理由で血栓が発生し、その血栓により血管が塞がって血流が忽然と遮断されてしまうわけです。そして、そのような振る舞いをする血栓は短時間で形成されるので、心筋梗塞や脳梗塞などが忽然と発症することになります。

 すなわち致死的な血管イベントを予防するには血栓が発生しないようにすることが最も重要なポイントになります。そして、血栓症を生む背景に動脈硬化があるわけですから、動脈硬化を予防することも間接的には血栓症の予防に寄与することになります。端的には、動脈硬化や血栓症が発生するリスク因子を制御できれば脳梗塞や心筋梗塞などの致死的な血管病の発症を予防することができます。

 それでは、動脈硬化発症の危険因子は何でしょうか。

(1)加齢

(2)喫煙

(3)糖尿病

(4)脂質異常症(悪玉コレステロールや中性脂肪上昇、善玉コレステロール低下)

(5)高血圧

(6)肥満/内臓脂肪蓄積

(7)活性酸素過多 などが挙げられます。

 一方、血栓症の発症リスクは

(1)血流うったい(心臓細動、筋肉ポンプ失調など)

(2)凝固能亢進・血栓形成傾向(体質 炎症)

(3)血管内障害(動脈硬化、外傷、感染、脱水)などです。

 これらが生じないようにすればよいわけですから、注意しなければいけない生活習慣として、

(1)緑黄色野菜を豊富に食べる

(2)十分な水分を摂る

(3)減塩に心掛ける

(4)動物性タンパクに偏らない

(5)腹八分

(6)間食しない

(7)就寝前3時間は食事しない

(8)抗酸化サプリメントの利用

(9)毎日7〜7.5時間の睡眠

(10)週5日以上の20分間早歩きウオーキング

(11)毎日20回の深呼吸、20回の腹筋、20回のスクワット、20回のカーフレイズ

(12)ストレス回避、ストレス消化(趣味 瞑想)などが挙げられます。

 今回は、発病したら重症化する血管病について、その分類、発症メカニズム、予防について触れました。次回は、主要な血管疾患についての治療法や早期発見のためのポイント、発症予防のための健診などについて触れたいと思います。

著者プロフィール:北青山Dクリニック 院長 阿保 義久

1965年、青森県生まれ。東京大学医学部卒業後、東京大学医学部付属病院第一外科勤務。その後、虎の門病院で麻酔科として200例以上のメジャー手術の麻酔を担当。94年より三楽病院で胃ガン、大腸ガン、乳ガン、腹部大動脈瘤など、消化器・血管外科医として必要な手術の全てを豊富に経験した。97年より東京大学医学部第一外科(腫瘍外科・血管外科)に戻り、大学病院の臨床・研究スタッフとして後輩達を指導。

2000年に北青山Dクリニックを設立。下肢静脈瘤の日帰り手術他、外科医としてのスキルを生かした質の高い医療サービスの提供に励んでいる。


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