このように、アップル社の新しいスタートを象徴する商品群誕生の背景には、同社の一般的イメージとして定着している、商品デザインやインタフェースにおけるイノベーションだけでなく、ソフトウェア企業として着々と取り組んできたOS開発の成果が大きい。その始まりは、いまからちょうど10年前のNeXT Softwareの買収にまで遡ることができる。
PCにおける“Wintel”とのプラットフォーム競争に敗れ、次期OSの開発に挫折したアップルは、UNIXベースの新たなOSへの転換を決断し、新OSの原型を共同創業者のスティーブ・ジョブズともども、およそ4億ドルで購入した。その直後“iMac”等の新商品で息を吹き返したかに見えたが、2001年のITバブル崩壊のあおりを受けて業績は低迷、その後数年間に渡ってMacintoshシリーズの売り上げがほとんど成長しない状況が続いた。MacOS XとiPodはちょうどその時期に誕生した。
04年後半のiPod miniのスマッシュヒットに続く06年のiPod nanoの大成功、そしてバージョンアップの度に少しずつ評価を高めるMacOS Xの状況を見据え、最終的にCPUでも従来の路線を転換、社名を変更し、商品領域をモバイルとリビングルームに拡大したのである。会社の規模は10年前の3倍以上に、時価総額は10倍以上に成長した。
10年前の時点で、アップルがどこまで今日の姿を思い描いていたのかはわからない。しかし、一度は挫折したソフトウェアの望みを託した高額の投資が、創業以来の会社の精神ともいえるイノベーションとともに、10年の時を経て会社を新たな成長に導く原動力として結実したのは事実だ。
新生アップルの初年度となる07年度決算は間もなく発表される。新しい事業戦略を彼らがどう表現するか注目されるところだが、おそらくは昨年来掲げている「デジタルライフスタイル」に大きな変更はないだろう。
いま同様の目標を標榜するデジタルベンダーは多い。ライフスタイルそのものは着実に予想される方向に進んでいる一方で、それを実現している企業の顔ぶれは、例えば10年前の状況と比較してどうだろうか。アップルという企業をそうとらえた場合、筆者は企業経営(あるいは人生かもしれない)における10年間という時間の意味について考えてしまう。10年後の目標やビジョンといったとき、それは決して遠い未来の夢ではなく、具体的な目標を定めてやり抜くことなのだということをあらためて実感させてくれる。不透明性や不確実性という言葉は、いつまでも言い訳として通用するものではない。
なりかわ・やすのり
1964年和歌山県生まれ。88年NEC入社。経営企画部門を中心にさまざまな業務に従事し、2004年より現職。デバイスからソフトウェア、サービスに至る幅広いIT市場動向の分析を手掛けている。趣味は音楽、インターネット、散歩。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授