CIOはビジネスにも精通しなくてはならない。ハワイの最大手ホテルチェーンのCIOは、コスト削減と売り上げ増を目指し基盤システムの見直し、刷新を図った。加えて、ビジネス部門にITサービスの重要性を認識させることに努めた。
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デンバーにあるアウトリガーの集中予約センターは、02年には100万ページ以上のFAXを処理していた。同社の予約の大部分は、パッケージツアーを提供する旅行会社(ホールセラー)500社超から入っていた。これらの旅行会社は、割引料金の客室をあらかじめ一定数まとめて確保していた。だが、一部が売れ残る場合もあったため、アウトリガーにとって需要予測は至難の業だった。同社の予約コストは1件当たり18ドルに上っていた。
「われわれは小規模なホテル会社なのに、身の丈以上のITサービスをホールセラーに提供していた」とアラン・ホワイト氏。「膨大な労力が掛かっていた。ホールセラーごとにカスタマイズを行い、至れり尽くせりのITサービスを提供していた。完璧主義のなせる業だが、それはわれわれが主体性を欠いていたということでもある」
アウトリガーは集中予約システム(CRS:Central Reservation System)の新バージョンを開発することを決めた。新バージョンでは、航空会社のシステムとのシームレスな接続と、主要ホールセラーのシステムとの直接インタフェースを実現する計画だった。同社は社内で開発を行うこととし、4人のプログラマーと1人のビジネスアナリストをプロジェクトに1年以上専任させた。新バージョンはマイクロソフトの.NETフレームワークを採用して開発され、安全なインターネット通信を利用するようになっている。エンドユーザーはシンプルなWebインタフェースからアクセスできる。
アウトリガーはCRSの新バージョンで業界標準のXMLメッセージ形式を採用し、パートナーに同じメッセージセットを採用するよう呼び掛けた。そうすれば、アウトリガーのシステムに接続するために作成したインタフェースを、ほかのホテルチェーン用にも再利用できると同社は説明した。
アウトリガーは包括的なサンプルメッセージドキュメントの提供や、データマッピングの支援、プログラミングのサポート、パートナーが24時間365日利用できる完全なテスト環境の維持管理を行った。
CRSのアップグレードにより、トランザクション当たりのコストは数セントに減少した。ホールセラーは4〜5日前までしか予約を受け付けていなかったが、リアルタイムの空室データに基づいて直前まで予約に対応できるようになった。また、現在では予約の3分の2以上が電子的に行われている。新CRSは非常に効率よく運用できたため、アウトリガーは一部のホールセラーパートナー向けに、彼らの予約システムを自社プラットフォームでホスティングするアプリケーションサービスプロバイダー(ASP)事業にも乗り出した。この事業による売り上げの増加は小幅だが、この事業はパートナー支援を主な目的としている。
「オンラインでリアルタイムに在庫を把握して販売できるようになり、人的なコストも削減できたのは大きな成果だ」とケアリー氏。「以前のシステムは人手による作業に頼ったもので、存在価値がなくなっていた」
06年11月にはアウトリガーのWebサイトで処理された予約件数が、オンライン旅行会社エクスペディア経由の予約件数を上回った。直接予約の増加は、利益率の大幅な上昇をもたらした。「クレジットカード取引を1%減らすことができた。これは多大なコスト削減だ」
ホテル経営に必要なスキルの中でも最も奥が深いものが要求される業務の1つが、売り上げ管理だ。この業務は、需要を予測し、ビジネスがピークや底になる時期を読み、インセンティブを最大限に活用して高い客室稼働率の維持を図るものだ。ルームサービスの注文から映画のレンタルまで、1つのホテルで1日に発生するトランザクションは20万件にも上ることがある。また、コンベンションの予約が1回入ると、5年後の客室稼働率にも影響する可能性がある。売り上げ管理では、これらのファクターも踏まえなければならない。「売り上げ管理は、属人的なスキルに依存する業務だった」(ホワイト氏)
この業務の自動化が、アウトリガーが進めている最大のプロジェクトの1つだ。同社は06年、PROSの売り上げ管理システム(RMS:Revenue Management System)の試験運用を目的としたパイロットプログラムをスタートさせた。アウトリガーはPROSに、需要計画の作成アルゴリズムの開発に必要となる4年分の客室稼働率データを提供した。また、イベントのカレンダー(需要の増減の予測に使われる)や、すべての宿泊客データの概要なども参考情報として引き渡した。後者は、予約パターンや、宿泊客の属性、広告の反応、リピート予約の傾向を分析するための手掛かりになる。
ホワイト氏は、07年中に導入を開始することになっているPROSのRMSにより、アウトリガーではコスト削減が期待でき、削減率は1けた台後半になる見通しだと語る。
「われわれは現在、06年のデータを分析にかけて、予測を行っている。また、すべての売り上げ管理関係者を対象に、新しいRMSの操作、出力内容、出力の読み方や、日々の業務で微調整を加えるべき領域について研修を行っている」とホワイト氏。「PROSのシステムは、われわれが先行予約の販売方法を改善するのに役立つだろう。これまでわれわれは、需要の多い週と少ない週をあらかじめ大づかみに把握できていた。だが、PROSのシステムを利用すれば、需要の多い日と少ない日を十分前もって予想し、客室稼働率に影響を与える措置を講じられるだろう」
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授