勝てる会社は社員が強みを共有している――任天堂に学ぶ問われるコーチング力(2/2 ページ)

» 2008年10月15日 07時30分 公開
[細川馨(ビジネスコーチ),ITmedia]
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思考の枠を破った任天堂

 任天堂の例を紹介したい。京都に本社を置くこの企業は、1889年に創業し、当初はトランプや花札などのカードゲームを中心に販売していた。1980年代にファミコンを開発販売しゲーム市場を席巻した。その後は、「ニンテンドーDS」や「Wii」などのヒット商品で、2007年3月期の売上高は約1兆6700億円、経常利益は4400億円に上った。現在は不況の中で株価が幾分下がったが、2007年には時価総額が10兆円(現在は5.6兆円程度)を超え、ソニーを上回ったこともあった。

 任天堂はなぜこのように勝ち続けられるのだろうか? わたしはこの会社のミッションが優れているからだと思う。

 「CSR(企業の社会的責任)レポート」の中で、任天堂だからこそできる役割について岩田聡社長は次のように述べている。



任天堂は、わたしたちが提供する娯楽を通じて、多くの人を笑顔にすることで、明るい社会を築いていくことが、わたしたちだからこそできる役割ではないかと考えています。

ファミコンの時代には、ゲームの周りに常にほかの人がいて、コントローラーを奪い合うように多くの人たちに遊んでもらっていましたが、ゲームが高度化し複雑になっていく中で、いつしか「ゲームは一人で部屋にこもって遊ぶもの」というイメージが生まれたり、「ゲームは自分には関係ないもの」と感じられるようになり、どんどん縁遠いものになりつつありました。

(中略)

このような状況の中で、わたしたちは、ゲームが家族全員にとって関係のあるものとして社会の中で存在していくために、従来からゲームをされている方はもちろんのこと、初めてゲームに触れる方や、以前はゲームをしていたけれど最近は止めてしまった方にも一緒になってゲームを楽しんでいただき、そこから多くの笑顔が生まれるためにはどうすればいいのかを長い時間をかけて追究してきました。

その結果、幅広い年齢層を対象とした「Nintendogs」や「脳を鍛える大人のDSトレーニング」、家族での利用をより意識した「Wii Sports」や「Wii Fit」によって、ニンテンドーDS(携帯型ゲーム機)やWii(据置型ゲーム機)が世界中で老若男女を問わず幅広い層に受け入れられつつあり、世代を超えた人と人が触れ合うコミュニケーションが生まれています。おじいちゃんやおばあちゃんと孫の間にもゲームを通じて共通の話題ができたのです。同社サイトより



 これがすべてを物語っているはずだ。任天堂の強みは、アナリストの意見を一切無視したことである。「任天堂=ゲーム=子供」なので少子化を迎えるこれからの時代は厳しいとアナリストはみていたが、その声に耳を傾けなかった。おもちゃやゲームは子供相手だという思考の枠にとらわれなかった。

 「大人も楽しめる」「家族で楽しむ」というコンセプトを打ち立てて、製品開発に取りくみ、大ヒットを生み出した。自分たちの強み(ミッション)をよく理解し、その強みを存分に発揮したのである。

 「何を持って同業他社に勝つか」「この組織だからこそできるもの」というミッションの大切さについて分かってもらえただろうか。

 次回は、6カ月後のゴールを確実に達成するというテーマで話をする。


プロフィール

細川馨(ほそかわ かおる)

ビジネスコーチ株式会社代表取締役

外資系生命保険入社。支社長、支社開発室長などを経て、2003年にプロコーチとして独立。2005年に当社を設立し、代表取締役に就任。コーチングを勤務先の保険会社に導入し、独自の営業システムを構築、業績を著しく伸ばす。業績を必ず伸ばす「コンサルティングコーチング」を独自のスタイルとし、現在大企業管理職への研修、企業のコーポレートコーチとして活躍。日経ビジネスアソシエ、日経ベンチャー、東商新聞連載。世界ビジネスコーチ協会資格検定委員会委員、CFP認定者、早稲田大学ビジネス情報アカデミー講師。


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