グリーンIT推進には、省エネ技術の浸透を市場に任せるだけでなく、法整備によってバックアップする施策も必要だ。
経済産業省でグリーンIT政策を担当する、商務情報政策局 情報通信機器課の星野岳穂参事官は、早稲田大学で講演し、「これまではITについては、電力をフルに使って利便性、安心を最大限に追求してきた。しかし、ちょっと見直すと、電力をふんだんに使いすぎている面もある。電力の使い方、ITの運用の仕方を可視化することによって、コストが下がり、企業体力がより高まり、企業価値も上がるという新しい時代が来ている」として国際的な協力の下、グリーンITに取り組む企業への正当な評価の枠組みを作ることが大切だと訴えた。以下はその講演内容の一部をまとめたものだ。
環境問題という、企業価値を決める新しい価値軸の形成に加え、電力料金の急増という経営に直接影響を与えるまでの問題となったことで、各国企業はグリーンITに急速に関心を向け始めた。米国ガートナー社が発表した2008年「企業経営に影響を与える戦略的技術」ランキングでは「グリーンIT」を第1位にしている。米国では、GoogleやSun、IBM、Intel、AMDなどのIT関連企業が、IT機器やデータセンターの省エネ基準を作ったり啓蒙普及したりすべくコンソーシアムを結成している。
こうした動きに、日本はどう反応したか。もともと「省エネ」は日本のお家芸、すなわち石油危機を乗り切った経験を持つ日本人にとっては得意な分野であるはずだ。したがって、日本はリーダーシップを取って国際的なソリューションを提供できる立場にある。こうした思いで、経済産業省は2007年12月に「グリーンITイニシアティブ会議」を開催し、「IT自身の省エネ」と「ITを用いた社会全体の省エネ」を軸とした日本発の「グリーンIT」を、海外とも協力しつつ産官学が連携して推進し、国民運動としていくことを提唱した。
その中で、政府は革新的な技術開発プロジェクトの支援や省エネ技術・製品の普及に努める。と同時に、産業界に対しては産官が連携できるような体制を整えていただくと言うことを提唱した。それに加えて、世界全体に対して、日本発の「グリーンIT」への取り組みの仕方というものを発信していくこととした。
2008年2月1日、電子情報技術産業協会(JEITA)や日本電機工業会(JEMA)などが発起人団体となって「グリーンIT推進協議会」が設立された。すでに2回の会合が開催され、産業界が一体となり、大学とも連携しながらITのCO2排出量を削減するためには、どんな技術があり、どういう運用をしていったらいいのかが議論されている。
ところで、近年の情報化社会の進展で、IT機器の電力消費が増大しているが、だからといってITは環境に負荷を与える悪者、と考えるのは早計である。なぜなら、社会がITを導入することによって、経済産業活動や日常生活の効率性、生産性を高め、その結果省エネが実現する。当方の試算によれば、むしろITを積極的に導入することによる環境へのポジティブな効果の方が大きいのである。この議論をせずに、ITの電力消費増大の面だけ強調し、なんとかITを使わないようにしようというのは、社会全体としてはミスリーディングになってしまう。
そこで私どもが考えた日本発の「グリーンIT」は、前述したようにIT関連機器そのものを徹底的に省エネすると同時に、ITを使う立場の人がうまく使うことによってますます省エネする、つまり、「ITの省エネ」と「ITによる社会の省エネ」を同時に推進していく、それを世界に発信していくという立場を取っている。
では、IT関連機器を徹底的に省エネしたら、実際にどれくらいの効果があがるだろうか。当省がグリーンIT推進協議会と共同で試算した結果によれば、ITの最大限の省エネ技術の導入によって、2030年には国内電力消費量を1時間あたり1000億キロワット(導入しない場合に比べて4割)は削減することが可能となる。一方、ITを使った社会の省エネ、例えばビルや住宅のエネルギー監視システムやテレビ会議、テレワーク、電子媒体などを積極的に活用することで、2030年には社会全体で1時間あたり5900億キロワットに相当するエネルギーを省エネすることができる。現時点でも、例えば高層ビルの空調に必要な水冷ポンプの回転数をセンサーを使って制御するだけでも、あっと言う間に9割くらいの省エネすることが可能となったという実例もある。この技術は、早速、洞爺湖サミット会場となったホテルにも試験的に導入された。それだけ、「ITによる社会の省エネ」はインパクトが大きいのだ。だからこそ、「ITの省エネ」と「ITによる社会の省エネ」を同時に推進していこうというのである。
そういう日本での努力をそのまま世界に当てはめると、世界全体では電力消費量を1時間あたり11兆キロワットほど削減できる。つまり、ITが直接役割を果たすことによって、世界全体で15%位の省エネが実現できることになる。
こうした考え、対策は国際連携を進めていく必要がある。ITに国境はないからだ。5月29日にグリーンIT国際シンポジウムを東京で開催された。世界各国からITの代表者が参加して議論が行われ、グリーンITの輪が広がった。また、洞爺湖サミットに合わせて、プレスセンターの隣にできるだけCO2を排出しない次世代型の住宅を建設し、日本の技術がいかに進んでいるかをアピールした。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授