政府の役割としては、中長期を見すえた革新技術開発「グリーンITプロジェクト」を本年度からスタートさせている。その1つが、半導体チップの直接水冷技術によってデータセンター(サーバ・ストレージ)の消費電力量を30%以上削減しようというものである。また、2025年までに台数が10数倍になると予測されているルータについても、パワー・オン・デマンドによって待機電力の30%以上の削減を目指している。これは、ルータの電源を24時間入れっ放しにしておくのではなく、トラフィックの量を予測して、必要でないルータについては電源を落としておき、必要になったらすぐに立ち上げるという技術である。
これまではITについては、電力をフルに使って利便性、安心を最大限に追求してきた。しかし、ちょっと見直すと、電力をふんだんに使いすぎている面もある。だから、今後相当なエネルギー消費量の削減が可能である。それをきちんとやっていこうというわけだ。
しかし、いくら技術が開発されても、その技術や製品・サービスが世の中にしっかり普及していかなければ実効性がなくなってしまう。市場に任せるだけではなく、制度的にも市場への普及を加速させる枠組みが省エネ法「トップランナー方式」だ。これは、各機器において、現在利用されている製品のうち最もエネルギー消費効率が優れている性能をベースに、それよ若干やや高い値を達成可能な目標と定め、決められた年度までに市場投入される製品全てがその目標をクリアすることを求める方式である。
その法制度の下で、この10年間でエアコンや冷蔵庫等の家電製品については40〜50%もの省エネが実現し、非常に大きい効果が確認されている。本制度をうまく活用しながら照明、ディスプレイ、ルータ、情報機器、家電・業務機器の省エネ目標を設定し、「グリーンIT」を着実に進めていくということである。
省エネというとハードの問題のように思われがちだが、実はITやコンピュータの運用の仕方を少し工夫するだけでかなり省エネが実現できるのだ。例えばサーバ仮想化技術を用いれば直ちにサーバ台数が削減され省エネになる。省エネに一見関係なさそうなセキュリティ対策も、ファイアウォールで不正アクセスを水際で防いだり、シンクライアントにしたりすることで省エネにつながる可能性もある。
グリーンITは、その取り組みが企業にとっては競争力にもなる。その意味で、紛れもなくITビジネスの新しい価値基軸になってきている。電力の使い方、ITの運用の仕方を可視化することによって、コストが下がり、企業体力がより高まり、企業価値も上がるという新しい時代が来ているということである。
そのためにも、省エネ型の機器を開発し積極的に市場投入した企業の努力が正当に評価される枠組みが不可欠なので、国際的な協力の下で適切な枠組みを構築する必要がある。そして、その枠組みの中でITのベンダーとユーザーが一致団結してグリーンITを推進しつつ、新しい企業価値を見つけていただき、それを競争力として世界に発信していくという社会を作っていきたいと思う。
(早稲田大学IT戦略研究所主催、エグゼクティブリーダーズフォーラム第22回インタラクティブ・ミーティング講演「グリーンITが拓く情報新時代:環境と調和した持続的IT社会の実現に向けて」より)
ほしの・たけお 1978年、通商産業省(現・経済産業省)に入省。基礎産業局総務課、工業技術院技術振興課、機械情報産業局電子機器課(現・情報通信機器課)、スタンフォード大学留学、中東アフリカ室、資源エネルギー庁原子力産業課、製造産業局鉄鋼課等を経て、現在、商務情報政策局参事官。主として半導体デバイス、電子機器、グリーンIT政策等を担当。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授