次に、経営手法に関する勘違いを紹介する。一般に事業計画や予算策定などのときに、それぞれの部署のトップから経営戦略が立案される。米国では、大統領から企業の経営者まで、トップは自分の責任で戦略を作成して提示する。日本の企業では多くの場合、部下から集めた課題やテーマをまとめて作文し、戦略として提示する。いったいトップ自身の考えはどこにあるのだろうか。
製品開発の進め方も同じようなものだ。各部署から提示された開発計画に対して、開発会議の席上ではトップや経営層が盛んにけちをつけることに終始する。各担当部門側からでなく経営者側から、新技術や新製品を研究しろ、新規事業を検討するためのプロジェクトを立ち上げろというような指示があった例をあまり聞いたことがない。
人材育成に対する経営者の意識もお粗末だ。セミナーや研修会などの座学中心で人が育つと思ったら大間違いだ。経営者や管理職の頭の中には、四六時中「人材育成」を考える意識が植えつけられていなければならない。そこから、上司の背中を見て部下が育つ雰囲気、オンザジョッブトレーニング(OJT)が常に行われる風土、社員教育システムの定着などの企業文化を作り上げることができる。
経営における最大の問題は、多くの経営者や幹部が上述のような勘違いに気付いていないことだ。正しいとさえ思っている。トップに上りつめた人は、だいたい自信家である。勘違いに気付かず、気付いても簡単には持論を曲げない。困ったものである。あるトップなどは自信家であるあまり、耳を貸さないどころか、腹心と相談もしない。部下との間は、実質的に断絶状態だ。それにも気付いていない。まず、気付かせること、気付くことが第一歩である。どうしたらそれらができるのか。実に難しい。
以上のような経営の現場で起きている重大な勘違いを掘り起こし、その対策を検討していきたい。
増岡直二郎(ますおか なおじろう)
日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授