日本人の主食であるコメを取り巻く環境は深刻さを増している。農業の“ムラ社会”化が状況の悪化を加速させる。今こそ広く門戸を開放し、外部から刺激を受け入れ、潜在的な生産力を高めるべきであろう。
日本の農業が大転換期を迎えている。戦後64年が経ち、農業に従事している人口の減少と高齢化が加速。食料自給率が40%と低いのに、耕作放棄地は埼玉県と同じ面積があるといわれ、農政の無策ぶりが問題視されている。とりわけ、需要の低迷から生産調整が続く主食のコメをめぐる状況は深刻である。これまで農業の関係者は議論を重ね、政府はさまざまな手を打ってきたが、退潮の傾向に歯止めがかからない。
それはなぜか。コメを軸とした日本農業の問題に、外部の視点が足りないからである。世界人口の増加などにより食料供給が年々逼迫(ひっぱく)している現実があるのにもかかわらず、国内では主な食糧であるコメの生産調整のために多大な労力を費やし、ひたすら需要均衡を目指すような農政がある。その姿は“ガラパゴス諸島の住人”とまでは言わぬまでも、文字通り“ムラ社会”の印象は否めない。
また、日本の農業は、新規参入を望む外部者にも閉じている。とりわけ民間企業の参入に対する抵抗感は今なお根強い。日本を代表する大企業が軒並みリストラに踏み切る中、雇用の受け皿として農業分野が期待されているが、個人が参入を考えるとき、その門戸は広く開かれているとは言い難い。
今回の世界経済危機は、日本の農業を再評価する契機になると思われる。冷戦の勝者として米国が経済的な繁栄を謳歌(おうか)する背後で金融資本主義が暴走していた。国際商品市場であらゆる資源の価格が暴落する中、食糧はいち早く値を戻している。大恐慌が襲いかかろうと、食糧だけは需要が消失することはない。
戦後の日本は復興を果たし、経済大国にまで上り詰めた。資源を輸入し、工業生産物を輸出する。原材料のみならず農産品は輸入に頼る。戦後の経済的繁栄をもたらしたわが国のモデルの再検証を催促しているようにも見える。何より1億2000万人以上の人口を抱える日本が食糧供給の6割を海外に頼り、多大の負担をかけていることのゆがみがいずれ問題化するのではないか。
日本は国土が狭く農産品は国際競争力が低い。故に、食料は輸入に頼ったほうが経済合理性に叶うとされていた。世界各地で砂漠化が進行し、塩害や水不足が深刻化する中、温暖湿潤な気候に恵まれた日本の農業の潜在力は低いとは思えない。潜在的な生産力を開花させれば、コメをしてこの国の“最強の資源”とすることは決して不可能ではないはずだ。
本書では、総合商社の第一線で活躍するエネルギー・食糧問題の専門家である著者が、固定観念を排し、新たな観点でコメを中心とした日本農業の問題点を浮き彫りにし、新たな時代の農業のあり方を「日本農業改革私案」として提案するものである。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授