ITmedia 日本のシステムとグローバルのシステムはどのように関係づけられていますか。
大西 グローバルシステムの中心は部品表です。部品表が生産における血管と血液のような役割を果たしているわけです。その周りに、GSCM(Global SCM)というものがあり、その一環に、GALC(Global Assembly Line Control)があります。GALCは生産のラインコントロールという意味では、最も標準的なシステムといえます。
グローバルに標準化する生産系システムと対局にあるのが販売システムです。これは地域によって販売の仕方や用語が違うこともあり、ローカルのシステムが残っています。例えば、受注という言葉の概念も、国によって違います。クルマを受注する際に、中間業者が数社も入る国があります。結果として「納期」も、各国で定義が異なることになるため、標準化が難しくなっています。
ITmedia 現在の情報システムを示す自前主義について、具体的なお話を教えてください。
大西 国内のトヨタ自動車を中心に中央集権的な考え方で構築してきたシステムといえます。例えば、この情報システム本部のビル(愛知県豊田市の本社地区)は免震構造で、8階より上にサーバなどの機器があります。たとえ地震が起きても、このビルは倒れないように独自設計しています。
また、マシンやネットワーク機器、ソフトウェアはほとんどが買い取りです。自前で構築して中央集権的に管理したいということですが、ベースは、トヨタの仕事に合わせてITで最適にサポートしたいという考え方です。買い取りのお金を「固定費」としてみるなら、非常に固定費の比率が高いシステムといえます。
今後、SOAやSaaS(サービスとしてのソフトウェア)など外部活用も検討する必要があります。自前主義の良いところを持ちながら、いかに情報システムを「柔構造化」するかが、われわれの代の役目だと考えています。それを検討していたところに、今回の不況が起きてしまったという状況です。
ITmedia きっかけとして、上層部から柔構造にするように要請などがあったのですか。
大西 要請というよりは、特にコスト面から構造を見直す必要が出てきたということです。アプリケーション開発、運用、コンプライアンスという3つの柱があるとすると、ざっとアプリケーション開発は投資の45%、運用も45%、コンプライアンスは10%くらいです。アプリケーション開発の比率が大きいことが特徴です。
アプリケーション開発というのは、ビジネスサイドとの合意で決まりますので、どの程度の満足度で合意するかで調整は可能です。しかし、運用については、開発したアプリケーションの数だけ必要になりますので、増えこそすれ減りはしません。今、それを解決しなくてはいけない状況になっています。
そのため、1月に、本年度のIT投資に向けてビジネス部門とのすり合わせをしました。運用のところは、8000前後の契約を実行していますが、その8000の契約を全数見直さなくてはならなくなっています。今後それらをアウトソースを含め見直していきますが、それが「柔」になるのか、本当にコストを削減できるのかは分かりません。
日産自動車の行徳セルソCIO(最高情報責任者)にときどきお会いします。日産さんは非常に割り切っていらっしゃいます。2008年に米IBMに行きました。IBMのCIOが登場して、CIOの役割を話していました。「自分はIBMに流れているアプリケーションの関係性をすべていえる」と言っていました。本当かなと思いましたが。でも、CIOの役割ってそうなのだろうなと感じました。行徳さんの頭の中はそういう構造です。日産の仕事とアプリケーションをとても単純化して、優先順位をつけて、自社でやるもの、外に出すもの、スタンドアローンにしておくべきもの、連携するべきものなどを理解していると思います。
トヨタにもそういう考え方はありますが、日産ほど整理した形では語れません。残念ながら、部分最適の集合体というのがトヨタのシステムだった可能性はあります。システムニーズより会社のビジネスの方が早く成長したため、大きい方から小さい方を見た時に、それが全体最適のシステムに見えたのかもしれません。
ビジネス規模が縮小する傾向にある今、随分ゴツゴツと、はみ出したりしていることが分かってきたわけです。こうした状況で、システムの組み直しをする必要が出てきています。ただ、ゼロからリセットして全体最適するなど無理ですから、結局は、システム老朽化による更新などの機会をどうとらえるかといった仕事になります。その典型が、トヨタの場合サーバの集約だったり、2000年くらいからのCisco Systemsのシステムを使ったネットワークの刷新だったりするわけです。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授