医療教育を考えてみよう。医療現場は資格社会である。さまざまな医療従事者資格があり付随して業務内容が限定される。資格は形式上必要な手続きに過ぎず、本当に重要なのは必要十分な知識と技術が身に付いているか、その実質的中身である。言うまでもなく専門教育が重要である。一般教育まで話を広げよう。日本の小学校、中学校、高等学校のレベルは欧米諸国に比べ決して引けをとらない。しかし大学くらいから日本が劣勢になり、さらに大学院レベルになると、「本当に日本は技術立国を目指すの?」と疑問が生じる。
基礎研究費のやりくりは苦心惨憺である。税収不足で政府にいくらお金がないからといって、未来の技術基盤に対する投資を怠ってはならない。2010年大予測としてわたしが最も危惧するのは高等教育における先進国との格差がますます広がる事態である。高等教育に従事する者に重い荷がのしかかる。次年度研究費を一体どうしようか。こうして頭を悩ませながら年の瀬を迎えるのである。
税収不足が避けられない状況の中、仕分け事業が注目されている。当然研究費の減額があるのだが、研究費といってもさまざまな問題を抱えている。一極集中の傾向、勝ち組負け組といった格差の存在、ピンハネ、ムダ、中間搾取などは一掃して欲しい。ここは一回仕切り直しの時期かもしれない。抗加齢医学(アンチエイジング医学)にかかわる研究はもともと国からの援助を受けずに国民の健康増進活動をけなげに進めてきた。他学会に比べ研究費削減の実害はさほど受けていない(これはこれで情けない話なのだが)。まあそのうち厚生労働省も医師会も予防医学の良さを分かってくれるだろう。
一人一人が健康増進に気を配り公的医療費削減を考えるべき時代に入った。医療面で国民の果たす義務について深く考える年になるだろう。不足する臓器を海外に求めるのは決して美談ではなく、国民の恥と考えて欲しい。脳死というネーミングが悪ければ植物状態とすれば、脳死移植ではなく植物移植となる。菩薩の精神「自己犠牲」を持とう。後期高齢者医療が悪ければ寿(ことぶき)医療だ。言葉は育てるものである。医療費抑制政策の要として「マルメ医療」はますます広がると予想される。わたしはこのマルメ医療がアンチエイジングなどの予防医学を積極的に活用する良い機会だと前向きに考えている。
2010年もストレスやらウイルスやらが猛威を奮う忍耐の年になりそうだ。それでも希望だけは大きく持ち、自分自身の免疫力と抵抗力を強める年にしようではないか。
米井嘉一(よねい よしかず)
同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンター教授
1958年東京生まれ。1986年に慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程を修了後、UCLAに留学。1989年に帰国後、日本鋼管病院内科 人間ドック脳ドック室部長を経て、2005年に同志社大学アンチエイジングリサーチセンター教授就任。現在は同志社大学生命医科学部の教授を兼任し研究に尽力するほか、日本抗加齢医学会の国際担当理事として、アジア、ヨーロッパ、アメリカなど各国の抗加齢医学会との交流に努める。主な著書に「抗加齢医学入門」(慶應義塾大学出版会)、「アンチエイジングのすすめ」(新潮社)など。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
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明治学院大学 経済学部准教授